~個体の大きさと細胞の大きさ~
ゾウはあれだけ体が大きいのだから、ひとつひとつの細胞が巨大なのではないかとも思えますが、実は細胞の大きさは、種によることなくほとんど同じで、1ミリの1000分の1の単位であるマイクロメートルで表される単位に収束されます。つまりゾウもアリも基本的な細胞の大きさにほとんど変わりはないのです。ただし、細胞数は大きく異なります。生物の細胞数の目安は1キログラムあたり1兆個ですから、その差は歴然としています。
なぜ細胞は生物の種類、体の大きさによって巨大化しないのでしょうか、その理由としては、以下のふたつの点をあげることができます。
ひとつめが、物質輸送による制約です。細胞は遺伝情報に従って、タンパク質を常に合成しています。そして生命活動を支えるために、細胞内ではタンパク質の絶え間のない輸送が行われます。細胞のサイズが大きければ、それらが隅々まで迅速に行き渡らない可能性が出てきます。また生命活動の結果生じる不要な物質の排出を効率よく行うために、細胞が大きすぎるのは不都合なのです。
もうひとつが、強度確保による制約です。同じ材質でできたものは、大きくなるほど強度に難が生じるようになります。たとえば水の入った風船を想像してみてください。小さいものは揺れなどの衝撃を受けてもさほど影響を受けませんが、大きいものは内部の水の動きが激しくなる分、影響も大きくなります。つまり、大きくなるほど壊れやすくなるのです。そうしたリスクを避けるために細胞は大きくなれずにいるのです。
【出典】『眠れなくなるほど面白い 図解 生物の話』
監修:廣澤瑞子 日本文芸社刊
執筆者プロフィール
横浜生まれ。東京大学農学部農芸化学科卒業。1996年、東京大学大学院農学生命科学研究科応用動物科学専攻博士課程修了。日本学術振興会特別研究員、米イリノイ大学シカゴ校およびドイツマックスプランク生物物理化学研究所の博士研究員を経て、現在は東京大学大学院農学生命科学研究科応用動物科学専攻細胞生化学研究室に助教として在籍。著書に『理科のおさらい 生物』(自由国民社)がある。
「人間は何歳まで生きられる?」「iPS細胞で薄毛を救う?」「三毛猫はなぜメスばかり?」「黒い花は世に存在しない?」ーー生命の誕生・進化から、動物、植物、ヒトの生態、最先端の医療・地球環境、未来まで、生物学でひもとく60のナゾとフシギ!知れば知るほど面白い!
公開日:2023.05.11
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