自然免疫と獲得免疫
免疫は細菌やウイルスから体を守る防御システムです。この項では世界中で猛威を振るい、私たちの生活を大混乱させた新型コロナウイルスやワクチン接種の話題を例に解説します。約50年前に、「免疫機能の低下が老化の原因」と提唱する研究者がいました。65歳以上の高齢者では感染症で亡くなる方が、若者に比べて3~4倍多くなる。また、インフルエンザワクチンに対して免疫を獲得する割合は、若者に比べて半分くらいになる。こうした疫学的な調査から、歳を重ねると免疫システムに悪影響を与えることがわかります。ですので、こうしたことが積極的に高齢者に新型コロナワクチン接種を進めた根拠の1つとなるのでしょう。
免疫には生まれつき備わっている「自然免疫」と、あとから備わる「獲得免疫」があります(下図)。異物が皮膚などのバリアを通過すると、「自然免疫」を担当する“好中球”や“マクロファージ”が食作用で異物を取り除きます。老化しても数は大きく変わりませんが、食作用能が下がってしまい、「自然免疫」が弱くなります。
「獲得免疫」はマクロファージが食べた異物の一部を“樹状細胞”に渡し、“T細胞”の一種であることを体の中に知らせます。ヘルパーT細胞は司令塔として、“B細胞”を指揮して抗体をどんどんつくらせるほか、“キラーT細胞”や“NK細胞”も加わって大量の異物に対抗します(下図)。
また、T細胞やB細胞の一部は、“メモリー細胞”として長い期間生き残り、体の中をパトロールして次の感染に備えます。こうした作用によって「免疫」を獲得したとされるわけです。老化していくとT細胞がたくさん集まっている胸腺(胸骨の裏にある組織)がどんどん小さくなり、T細胞の供給が少なくなり、結果として「獲得免疫」が弱くなります。これが感染症に罹りやすくなる原因です。そのうえ炎症をコントロールする能力も弱まってしまう。その結果、「慢性炎症」という状態が続いてほかの組織の機能を下げてしまうため、老化を加速していくのです。ですので、免疫機能を維持することはとても大切なのです。
出典:『眠れなくなるほど面白い 図解 老化の話』監/長岡功 野村義宏
【書誌情報】
『眠れなくなるほど面白い 図解 老化の話』
長岡 功 総監修/ 野村 義宏 監修
高齢化や平均寿命が伸びた社会では、「老化」は誰もが避けられない、しかし誰もが可能な限り抗いたいテーマ。その多くは人体の「老化現象」、またそれに伴う「諸症状」として、完全には克服できないまでも、原因やしくみを知ってうまく対応すれば、症状を「やわらげる」ことや、日常生活での「影響を少なくする」こと、また「目立たなくする」ことが可能である。本書では具体的に、老化にともなう病気・諸症状の原因に言及し、その対処・対策法を解説、紹介する。中高年以降の健康と美容の悩みを楽しく読めて、一気に解決する一冊です。
公開日:2023.05.04