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進撃のモンスター井上尚弥。日本人キラー粉砕【二宮清純 スポーツの嵐】

Text:二宮清純

「イノウエのキャリアの方が伝説的」

 モンスターの前では、さしもの“日本人キラー”も、“ヘビににらまれたカエル”も同然だった。

 さる1月24日、東京・有明アリーナ。世界スーパーバンタム級4団体統一王者の井上尚弥は、WBO世界同級11位の金芸俊(キム・イェジュン=韓国)を4回KOで下し、3度目(WBCとWBOは4度目)の4団体王座防衛に成功した。なお世界戦での22KOは、元ヘビー級王者のレジェンド、ジョー・ルイス(米国)と並び最多となった。

 当初、井上は昨年12月24日、オーストラリアのサム・グッドマンの挑戦を受ける予定だった。ところが試合の10日前にグッドマンが左目上を負傷し、1カ月の延期が決まった。

 1月11日、グッドマンは再び同じ部位を負傷し、挑戦を辞退。代役として白羽の矢が立ったのが金だった。

 1ラウンド、互いに相手の出方を窺う静かな立ち上がりだったが、井上が前に出るだけで左構えの金は、気圧されたようにバックステップを踏んだ。2、3ラウンドも、同じような展開が続いた。

 そして迎えた4ラウンド、左フックからチャンスを掴み、重くて鋭い左ボディブローを2発ねじ込む。日本人相手に7戦全勝の金は右手で「来い!」と挑発するが、これが井上の闘志に油を注いでしまった。右ストレートで挑戦者を3メートルほど吹っ飛ばし、試合の幕を引いた。

 試合後、金の挑発について聞かれた井上は「ちょっとムッとした。絶対倒してやろうと思った」と語り、哀れみの表情を浮かべて続けた。

「そんなことしなければいいのに……」

 追い込まれた金は、倒される前にイチかバチかのカウンターを狙ったわけだが、百戦錬磨のモンスターの前では、単なる悪あがきに過ぎなかった。

 冒頭で“ヘビににらまれたカエル”と書いたが、飢えたライオンの前に放り出されたエサのようにも見えた。

 井上と契約する世界的プロモーター、ボブ・アラムは、元世界6階級制覇のマニー・パッキャオ(フィリピン)との比較を問われ、こう答えた。

「イノウエのキャリアの方が伝説的だ。パッキャオは注意力を欠いてKOされた試合もあるが、イノウエ(のボクシング)は規律正しく、大きなリスクを取らない。スキルもテクニックもある」

 今春には米ラスベガスでの試合が予定されている。そして、その後は推定30億円の契約を結んだサウジアラビアへ。世界がナオヤ・イノウエを待っている。

初出=週刊漫画ゴラク2025年2月14日発売号

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