森保一の「天職」。8年間の総決算【二宮清純 スポーツの嵐】


「ハッピージョブ」
ひと足早く、埼玉に桜が咲いた。
さる3月20日、埼玉スタジアムでサッカー日本代表はバーレーン代表を2対0で破り、8大会連続8度目のW杯出場を決めた。
「試合内容は理想とは違っていたが、選手たちが現実を受け止め、粘り強く勝つことができた。自分たちが我慢し続けた先にチャンスは来る。選手たちをピッチに送り出す際に“今日、勝って(W杯出場を)決める”と伝えた」
と森保一監督。2026年北中米大会で日本代表の指揮を執ることは確実。選手とともに「最高の景色」という名のW杯優勝を目指す。
サッカーの監督をして、欧州では「クレイジージョブ」と呼ぶ。元代表監督の岡田武史も、この言葉をよく用いていた。
勝てば天国、負ければ地獄。代表監督ともなれば、なおさらだ。批判の刃は、自分だけでなく、家族や親類縁者にも向かう。
気の弱い者、家庭を大事にしたい者は、この仕事に就かない方がいい。「クレイジージョブ」には、そんなニュアンスも潜んでいる。
ところが、である。森保は代表監督の苦労など、おくびにも出さない。それどころか「ハッピージョブ」とさえ、いってのける。
「僕は小さい頃からプロのサッカー選手に憧れ、ずっと続けたいと思っていた。しかし、いつまでも選手を続けるわけにはいかない。引退後もサッカーに関わるとなると、監督という仕事しかない。自分が好きな仕事を誇りを持って続けてきて、評価も得られる。こんな幸せな仕事は他にないと思っています」
森保にとって、サッカーの監督という仕事は、ある意味、「天職」なのだろう。
米国の小説家ジョン・スタインベックに「天才とは、蝶を追っていつの間にか山頂に登っている少年である」との言葉がある。
森保のここまでの歩みは、スタインベックの言葉に、全て凝縮されている。
2022年カタール大会で、森保ジャパンは、W杯優勝4回のドイツ、1回のスペインを撃破しながら、ベスト8の壁を突破できなかった。
その反省をもとに、第2次森保ジャパンは「超攻撃的3バック」に磨きをかけ、一気に世界の頂点にまで駆け上ろうとしている。
「W杯で8試合を前提にすると、2、3チームつくれるくらいの選手層が必要となる」
来年夏には、8年間に及ぶ「ハッピージョブ」の総仕上げが待っている。
初出=週刊漫画ゴラク2025年4月4日発売号