細胞の老化を止める酵素、テロメラーゼ
細胞の再生能力は修復と再生だけでなく、人の寿命にも関わっています。老化は組織の再生能力が加齢とともに衰えてくる現象ですが、再生能力がなくなれば、個々の細胞だけでなく、体にも寿命がきます。
1960年、ヘイフリックという研究者が、正常な人の細胞を培養すると50〜60回しか細胞分裂ができないことを発見しました。
今では、細胞の再生能力に密接に関係しているのが「テロメア」だと考えられています。
テロメアは各細胞の染色体の末端についている特別な塩基の繰り返し構造です。そして、細胞分裂の際に遺伝子の複製が行われるたびに、繰り返し構造がひとつ失われて短くなっていき、テロメアがなくなったら分裂できなくなります。
テロメアが「命の回数券」によく例えられるのはそのためです。細胞分裂するための回数が決められたチケットのようなものだからです。
テロメアには「テロメラーゼ」というテロメアを伸ばすことのできる酵素が存在します。テロメアを使い切ってしまう前に、テロメラーゼで新たにテロメアをつくれば、分裂を繰り返すことができます。
しかし、増殖・分化しない正常な体細胞には、幹細胞や生殖細胞、がん細胞のようなテロメラーゼによる活性がありません。分裂回数が進んでテロメアがある程度以上短くなると、もう分裂ができなくなります。
これを「ヘイフリック限界」といいます。幹細胞とは、組織や臓器に成長する元となる細胞です。逆にテロメラーゼの活性を抑制することにより、がんの治療が可能なのではないかというさまざまな研究も続けられています。
【書誌情報】
『眠れなくなるほど面白い 図解 病理学の話』
著:志賀 貢
シリーズ累計発行部数150万部突破の人気シリーズより、「病理学」について切りこんだした一冊。病理学とは「病(気の)理(ことわり)」の字のごとく、「人間の病気のしくみ」です。コロナウイルスが蔓延する中で、人はどのようにして病気になるのかが、改めて注目されています。細胞や血液、代謝や炎症、腫瘍、がん、遺伝子などと、人体のしくみ・器官、食事を含む生活、加齢などさまさまな環境との関連から、「病気」を解明するもの。専門書が多いなか、病気とその原因をわかりやすく図解した、身近な知識となる1冊です。
公開日:2020.10.15