『伝授』第14回 夏競馬の受け止め方を伝授

 俺は例年、夏の函館競馬場・札幌競馬場の開催期間は現地に赴いて過ごしている。
 今年も長く北海道に滞在していたので、その時のことについて書いてみたいと思う。

・北海道滞在中の過ごし方

 中央開催の時と変わらず、水曜日・木曜日は競馬場で調教を見て、午後は仕事をしている。だけど、同じ仕事でも何となく北海道にいるとのんびりした気分になる。
昔は日が沈んだら出かけていたけど、最近では出かけるのもかったるくなってしまって自分から出ようという気にはならない。
 とはいえ、誘われたら出かけることはあって、今年も須貝調教師に誘われて食事に行ったよ。

 北海道といえば、色々な観光地がある。俺はあまり休みだからといって出かけないけど、ウチの木村拓人記者は「今週は宗谷に行きます」とか「知床に行ってきます」とか言ってたから、滞在中に北海道を一周したんじゃないかな。
 俺も昔は北海道に遊びに来た女の子を連れて行ったりもしたけど、当たり障りのない観光地ばかりだったね(笑)。

 牧場には北海道滞在中かどうかに関係なく年に何度か行っている。調教師と「ちょっと見に行こうか」という感じで一緒に行くこともあるし、馬主さんに頼まれて見に行ったりもする。馬主さんは「気に入った馬がいたら買うよ」と俺に言うけど、実際に買わせたことは一度もないね。

今年も多くのお客さんが夏競馬を楽しんだ

・滞在競馬がマイナスになる馬のケース

 イクイノックスみたいに力が抜けた馬は別として、コンマ数秒の中で勝負する馬たちは、8~9割は精神的なもので勝ち負けが決まると思っているから、北海道に行ってガラッと変わることが少なくない。
 それが気温的な面なのか、肌感覚なのか、あるいは美浦のように常に厩舎の周りに他の馬も人もいてピリピリするような状況じゃないからなのか、実際のところは馬に聞かなきゃわからないけど、環境面は全然違うと思うし、北海道が馬にとって悪いわけがない。

 一方、北海道は滞在競馬という点で「競走のスイッチ」が入らない馬がいる可能性も否定はできない。
 今年、未勝利馬で休んでいたけど凄く良い馬がいた。休み明けでも普通に勝ったので、「どのくらいまで行くと思う?」と調教師に聞いたら、「オープンまで行くと思うよ」と言っていた。だけど、次走の1勝クラスで惨敗。理由を聞いたら「全然スイッチが入らなかった」ということだった。個人的には能力を出し切れていないだけだと思っている。
 トレセンから競馬場に輸送することでスイッチが入る、スイッチが入らないというのは、人間が後付けするケースがほとんどで、正直なところはわからないけど、能力があるはずなのに惨敗した原因を探したらそうなのかもしれない。 

・サラブレッドは経済動物がゆえに無理をしてでも走らないといけないケースもある

 先週の中山競馬場でパドックを見ていたら、夏負けが酷い馬が2頭いた。その馬はどちらも惨敗。
 夏負けしているからといって競馬で絶対に走らないとは限らないけど、テレビ画面でも夏負けと見てわかる馬は相当酷い。
 夏負けが酷くなると、皮膚呼吸できないから毛が逆立つ。その段階まで行くと、夏負けとハッキリわかるから厩舎側も競馬を使わないことがほとんど。

 ただ、ちょっとぐらい夏負けかもしれないと思っても、半信半疑で確証がないから使う馬はたくさんいる。
 オープンクラスの馬だったら「夏負けかも?」と思った段階で先を見据えて使わないかもしれないが、未勝利馬だったら多少の夏負けでも使わざるを得ないケースもある。だって、3歳未勝利戦は9月で終わってしまうからな。(今年は9月15日で終了)

 夏でも北海道の朝晩は涼しいので、慢性的な暑さで夏負けになることはほとんどない。
 逆に夏の中京、小倉、新潟開催には夏負けがたくさんいる。俺は「暑さで状態は良くないだろう」という推測から入っているから、北海道開催以外のレースはあまり馬券を買わなかったよ。 
 それなら、どの馬も北海道で走らせればいいと思うだろうけど、北海道の馬房も数に限りがある。みんな行けるわけではないから、40℃のなか走らないといけない馬がいるのは残念ながら致し方ない現実だ。

 次回は夏の北海道で印象に残っている馬について書いてみようと思う。

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