漫画が伝えるスポーツの真髄
●漫画がスポーツへの造詣を深める
スポーツの面白さ、醍醐味は、「過去・現在・未来」を同時進行で動かすことだと私は考えています。ただし、自分の感覚でしかないその運動線を言語化するのは極めて難しいこと。そこで取り上げたいのが「スポーツ漫画」の世界です。大人気を博した柔道漫画『YAWARA!』や『20世紀少年』などの作者であり、15年来のお付き合いをさせていただいている漫画家の浦沢直樹さんは、「絵画は静止して切り取られた一瞬を描くのに対し、漫画はたとえ1コマだとしても、時間の流れを描いている」とおっしゃっています。だからこそ、漫画を描くということは、その前後の流れがわかってないと描けないのです。
これこそが、漫画の面白さであり、学ぶところの多い奥深さでもあると思うのです。たとえば野球なら「ボールが潰れて見える」というカットを入れ、時間のイメージを増幅させることで、現実ではない世界を取り込むことができます。また、柔道の背負い投げのシーンでは、投げ手の選手の頭を中心に描いていくことで、身体が回転し、技が決まる一連の流れを1コマで表現しています。このように、漫画の1コマは、ビートとして切り取ると何ビートもの要素が入っています。起承転結が1コマで表現されているため、1コマではあるけれど、描かれているのは1フレーズなのです。
このような感覚をスポーツ選手が持てるようになると、結果を出すために展開を作ることが重要だということがわかり、スポーツに対する造詣がより深くなります。スポーツ漫画が流行るとそのスポーツをする子どもたちが増えるのは、漫画が面白かったからというよりも、漫画からそのスポーツへの造詣が深くなるために、よりそのスポーツに取り組みやすくなるということだとも考えます。
野球漫画が野球の見方を変えた
漫画家・水島新司さんの作品『ドカベン』、『野球狂の詩』などは、漫画の新たな技法をふんだんに取り入れた、画期的な漫画でした。バットがぐにゃりと曲がるところや、ボールのリリースをぼやかして描かないことなどで、時間を作り出しているのです。イラストは二次元の世界ですが、漫画は時間を入れることで四次元の世界を作り出しているのです。
【書誌情報】
『廣戸聡一 ブレインノート 脳と骨格で解く人体理論大全』
著者:廣戸聡一
「本来の自分の身体の動きと理屈を知り、身体だけでなく精神的な部分との兼ね合いの中で、“いかにして昨日の自分を超えるか”という壮大なテーマを、人体理論の大家であり、日本スポーツ・武道界の救世主と呼ぶに相応しい、廣戸聡一が、自身の経験と頭脳のすべてを注ぎ込んで著す最強最高の身体理論バイブル。四半世紀でのべ500,000人の臨床施術により、多くのトップアスリート、チーム、指導者、ドクターとの関わりの中で行き着いたトレーニング&コンディショニング理論の集大成、ここに完成。オリンピック競技を含む全52種目を個別にも論及、紐解いた、すべてのアスリート、指導者、スポーツファン必携の書!
公開日:2021.05.30