開幕に向けての調整は「ちょいネガティブ」に予測! 焦りを生まないことこそが大事! 巨人、高梨雄平投手の連載日記【ナシさんのアリな話 鉄腕奪取】第15回!

第15回 二年連続、開幕直前に一軍合流

『ラブすぽ』読者のみなさま、読売ジャイアンツの高梨雄平です。2025年のプロ野球もついに開幕!昨シーズンから始まったこのコラムもおかげさまで2シーズン目を迎えることができました。本当にありがとうございます。シーズン中も昨年同様、今思っていることをつらつらと(気ままに)書いていきたいと思っているので、宜しくお願いします。

僕自身は今シーズン、無事に一軍メンバーとして開幕を迎えることができました。昨シーズンは開幕を二軍で迎え、一軍に登録されたのは開幕から10日くらいが経った4月上旬でした。昨年と今年で、一体「何が違ったのか」というと、理由はもちろん色々あります。

2年連続で春季キャンプを二軍で過ごし、一軍に合流した時期もほぼ同じ。ただ、自分の中で「ちょっと違うかな」と感じたのは昨年一軍に合流したときは「テスト」のようなイメージで、今年は「確認」。僕自身がそういう意識でいたワケではなく、あくまでも「そう思われているのかな」という感覚です。

昨年は一軍に上がった時点で「(一軍で)使えるか、使えないか」を判断されているような気がしていたんですけど、今年は「ちゃんと仕上げてきた?」と確認された感じ。微妙なニュアンスの違いですけど、これは自分の中ではけっこう大きな違いでした。結果的に開幕で一軍に入れなかった昨年、自分の中で「立場を作らなければいけない」経験をしたので、それも生きたのかなと。変にじたばたすることなく、やるべきことにフォーカスできた気はしています。

そのうえで、一軍登録メンバーには制限があるので、チーム事情も大きく影響してきます。昨年であれば開幕時点で若い選手が何人か残って、結果的には僕は「はじかれる」形になった。でも、他人の結果をコントロールすることはできないので、僕は僕で開幕までのタスクをしっかりとこなすだけ。そこは昨年も今年も、ブレずにやれたかなと思います。

シーズンは143試合あるので、当然「開幕」だけにフォーカスするワケではないけど、ひとつの区切りとして、そこに向けてある程度体もメンタルも仕上げていかなければいけません。ただ、野球やスポーツの世界だけに限らず、自分が設定した「目標」に向けて計画を遂行していると、当然ですが「想定外」の出来事も起きます。わかりやすい例を挙げるとすれば「ケガ」などのアクシデント。プロ野球の世界に身を置くピッチャーとしては第一に、「投球できないレベルのケガ」をしないというのが大前提にあります。キャンプもオープン戦も、大きなケガだけはしないように過ごすことは毎年意識しています。もちろん、その中でトレーニングはしっかりとやるけど、状態を急に上げることなく、じっくりと仕上げていくことでリスクを最小限に抑えることは意識する。ただ、当たり前ですけど試合で投げれば肩や腰などが張ったり、いろいろな部分に負荷はかかります。そこは経験に基づいた「予測」をすることで、クリアしていく必要がある。「このくらいやれば、このくらいは張るよな」という予測をしておけば、それが想定内であれば問題ないし、想定より負荷がかかっているなら対処することもできる。今の自分の体が良い状態なのか悪い状態なのかを判断することさえできれば、僕の場合はアプローチの方法は分かっているので、いかようにもなる。

その意味でもうひとつ大切なのが、「予測」をちょっとだけ「ネガティブ」にしておくこと。開幕に向けた調整段階で言うのであれば「ここまで上がっていてほしいけど、もうちょい下でも良しとしよう」みたいな。「ちょいネガティブな予測」をさらに下回るようなことがあれば、改善する必要があるけど、そうでなければ「大きなケガ」は未然に防げる可能性が高くなる。限界ギリギリを攻めることも時には必要ですが、開幕前の時点で絶対に避けなければいけないのは「投げられないほどのアクシデント」なので、最悪そこだけは回避するイメージです。

「ちょいネガティブ」な予測をしておくことのメリットは他にもあります。それが「焦り」をなくすこと。自分で設定を高くし過ぎると、そこに到達できなかった時に当然ながら焦りが生まれます。パフォーマンスを発揮するうえで、この焦りは最大のタブー。焦ってしまうと、すべてが崩れてしまいます。「もっとやらなきゃ……」と調整ペースを無理に上げてしまったり、マウンド上でもいつも以上に出力を上げてしまって、結果的にケガにつながる可能性が高くなってしまう。「急ぐ」のはいいけど、「焦る」のはダメ。焦って良い仕事ができることなんて、まずないですからね。

とはいえ、そうやって最大限の注意を払いながらも、やっぱりどこかで「アレ?」と思うようなことが起きてしまうこともあります。今年の僕で言えば、3月13日の教育リーグ、楽天戦がそうでした。8回からマウンドに上がったんですけど、四球を3つ与えて1回1失点。

あれはさすがに「ヤバい……」と思いました(苦笑)。試合前からなぜか気持ちが上がってこなくて、マウンドに上がる前に体に喝を入れる意味でもちょっとトレーニングで刺激を入れてから望んだんですけど、全然集中できなくて。登板後には「よくわからないピッチングだった」とコメントしたんですけど、まさにそんな感じでした。正直に言うと、なぜああなったのかは今でも分かっていません。ただ、マウンド上の動作も思い描いていたモノとは全く違ったので、次の登板までに自分でもわからなかった「メンタル」ではなく、何がおかしいのかがハッキリしている「動作」の部分にアプローチして、改善することで、それなりに投げることができました。

ああいう状態はかなり久々でしたし、次の登板前はさすがに不安にもなりましたけど、ポジティブに捉えれば「開幕前の時期にこの経験ができて良かった」。公式戦であれをやってしまったら、さすがに困りますから(笑)。

今回は「今シーズンの開幕に向けての過ごし方」を書かせてもらいましたが、正直に言うとこれが正解なのかはまだわかりません。なぜなら、その結果は今シーズン以降のパフォーマンス、結果として出るから。プロ野球選手として、毎年いろいろなアプローチをして、トライ&エラーを繰り返していますが、自分の体で実験を繰り返して、最適解を探り続けている、というのが正直なところです。

次回のコラムでは、2025年に僕がトライしている「実験」について、もうちょっと詳しく書きたいと思っているので、お楽しみに!

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