28年トランプ五輪。どうなる五輪憲章【二宮清純 スポーツの嵐】

女性初のIOC会長誕生だが…

 漫画「ドラえもん」に登場するジャイアンでも、ここまで無茶なことはやらないのではないか。

 ドナルド・トランプ米国大統領の気まぐれな言動に、世界中が振り回されている。

 トランプが、相互関税の一部を90日間停止すると発表したのは、4月9日(現地時間)のことだ。彼はその4時間前に自身のSNSに「THIS IS A GREAT TIME TO BUY!! DJT」(絶好の買い時だ!!)と投稿している。

 DJTとは、もちろん自分自身のことだ。これは株式の相場操縦にあたらないのか。

 トランプと親しいオンライン証券の創業者は、たった1日で25億ドル(約3600億円)も稼いだ、と報じられている。これが事実なら「濡れ手で粟」と言わざるを得ない。

 個人的な話で恐縮だが、私は“トランプ関税”で株価が乱高下する前に、所持していたいくばくかの米国株を手放した。国王気取りの大統領の予測不能な言動に、一喜一憂したくなかったからだ。

 報道によると、トランプは高関税を課しても、ドル高が進めば輸入価格が低く抑えられると踏んでいるようだが、他方で、自国製品を海外に売りつけるためドル安を望んでいるとも伝えられる。矛盾もいいところで真面目に考えると、めまいがしてきそうだ。

 そのトランプ政権下で行なわれる五輪が28年のロサンゼルス夏季大会だ。トランプ1の2017年9月にロスでの開催が決まった。

 トランプは、その頃から反移民、反トランスジェンダー色を鮮明にしていたため、IOC委員の一部からは懸念の声が上がっていた。

 五輪憲章の根本原則では、人種、肌の色、性別、性的指向、言語、宗教など「いかなる種類の差別」も禁じられているからだ。

 あれから8年、懸念は現実のものとなった。トランプは既に外国のトランスジェンダー選手に対し、米国ビザの申請を拒否する方針を打ち出している。

 そんな中、女性初のIOC会長が誕生した。競泳の金メダリストであるジンバブエのカースティ・コベントリーだ。女性初に加え、史上最年少、アフリカ初など、刷新感満載だが、トランプと丁々発止のディールができるようなタマには見えない。

 後見役のトーマス・バッハも、これまでロシアのウラジーミル・プーチン、中国の習近平など強権的なリーダーに対しては、腰の引けた対応に終始してきた。五輪憲章は、風前の灯である。

初出=週刊漫画ゴラク2025年5月9日発売号

この記事のCategory

インフォテキストが入ります