親和性と摩擦熱
ペーパーレスが唱えられて久しいですが、まだまだ紙と鉛筆のない生活は考えられません。
鉛筆の芯の原型は、16世紀にイギリスで発見された石墨(グラファイト)や黒鉛と呼ばれる黒色の物質です。グラファイトは、六角形のハニカム(蜂の巣)状に結びついた炭素原子のシートが積み重なった構造をしています。
シート間の結びつきは弱いので,シート同士がはがれやすい(へき開)性質を持ちます。鉛筆で紙に字が書けるのは、黒鉛が紙の植物繊維に引っかかってなめらかにはがれ、紙に付着するためです。
鉛筆で字を書くときに、欠かせないのが消しゴムです。18世紀にプリーストリが鉛筆の字をゴムで偶然こすったところ、字を消せることに気付いたことに端を発し、現在の消しゴムに進歩しました。
消しゴムには、紙よりも黒鉛がくっつきやすい性質、高い親和性、があります。この性質は、鉛筆で書かれた字に消しゴムを押しつけると、消しゴムに字の形が黒く転写されることでもわかります。
消しゴムは、紙にこすると表面が削れて新鮮な面が現れるように工夫されています。消しゴムをこすり続けると、紙の繊維に引っかかっている黒鉛が、次々に現れる新鮮な面にからめ取られていきます。鉛筆の字は、このようにして消えるのです。
【出典】『眠れなくなるほど面白い 図解 物理の話』
著者:長澤光晴 日本文芸社刊
執筆者プロフィール
1967年生まれ。東京理科大学理工学部物理学科卒業。北海道大学大学院理学研究科物理学専攻博士課程修了。東京電機大学工学部基礎教育センター・工学部環境化学科准教授、フランス国立極低温研究所(CRTBT)客員研究員(2001年)を経て、現在は東京電機大学工学部自然科学系列・工学研究科物質工学専攻教授。博士(理学)。日本物理学会所属。著書に『面白いほどよくわかる物理』(日本文芸社)がある。
水洗トイレ・冷蔵庫からジェトコースター、スケート、虹、オーロラ、飛行機、人工衛星・GPSまで身の回りにある物や現象のしくみが面白いほどよくわかる!文系の人でも理解できるよう、とにかくわかりやすく、またとにかく図を使ってうまく説明しました! 本書で扱ったテーマは、身の回りにそれとなくある物や現象です。それらの仕組みを知らなくても生きてはいけますが、知っていればなかなか楽しく暮らしていける、そんなものばかりです。物理の醍醐味は、いろいろな現象を少数の法則や定理そして少しの仮定で取り扱うことができるところにあると思います。
公開日:2023.03.11