荷動粒子の分子・原子との衝突
オーロラは極光とも呼ばれ、高緯度の極地地方の空で見られる発光現象ですが、科学的にはまだ謎の多い現象です。北緯65~70度付近はオーロラが頻繁に出現するためにオーロラベルトと呼ばれ、観光地にもなっています。
オーロラは、主に赤、緑、紫などの光を極地地方の高度100~500キロメートルに出現します。この高度は熱圏に分類され、多くの生物が生活している対流圏(高度:0~約18キロメートル)の大気とは大きく隔離されています。そのため、地上の温度や湿度などの気象条件がオーロラに影響することはほとんどありません。
精細な観測によるとオーロラの光の波長は、高いエネルギー状態(励起状態)にあった酸素や窒素が、低いエネルギー状態(基底状態)に戻るときに放出する光(固有スペクトル)の波長と一致します。窒素に由来する光が赤と紫、酸素では赤と緑の光です。
つまりオーロラとは、なんらかの荷電粒子が高高度の薄い大気を構成する気体分子や原子と衝突することによって起こる発光現象なのです。
この気体と衝突を起こす荷電粒子は太陽からやってきます。地球は太陽から光を浴びるのと同時に、太陽表面からやってくる電離気体(プラズマ)の流れ(太陽風)にさらされています。プラズマとは、非常に高温の気体がプラスのイオンとマイナスの電子に分離している状態のことです。
ふつう荷電粒子は地球が持っている磁場(地磁気)によってかわされますが、プラズマが太陽から持ってくる磁場の向きによっては、一部が地球の磁気圏に入ってきます。磁気圏に侵入したプラズマは地球の夜の側にあるプラズマシートに溜まります。
これがなにかのきっかけで地球に引き寄せられると、ローレンツ力によって磁力線の周りでらせん軌道を描きながら極地へ向かって落下し、熱圏の大気を構成する分子や原子と衝突する、ということがオーロラ出現までのしくみと考えられています。
【出典】『眠れなくなるほど面白い 図解 物理の話』
著者:長澤光晴 日本文芸社刊
執筆者プロフィール
1967年生まれ。東京理科大学理工学部物理学科卒業。北海道大学大学院理学研究科物理学専攻博士課程修了。東京電機大学工学部基礎教育センター・工学部環境化学科准教授、フランス国立極低温研究所(CRTBT)客員研究員(2001年)を経て、現在は東京電機大学工学部自然科学系列・工学研究科物質工学専攻教授。博士(理学)。日本物理学会所属。著書に『面白いほどよくわかる物理』(日本文芸社)がある。
水洗トイレ・冷蔵庫からジェトコースター、スケート、虹、オーロラ、飛行機、人工衛星・GPSまで身の回りにある物や現象のしくみが面白いほどよくわかる!文系の人でも理解できるよう、とにかくわかりやすく、またとにかく図を使ってうまく説明しました! 本書で扱ったテーマは、身の回りにそれとなくある物や現象です。それらの仕組みを知らなくても生きてはいけますが、知っていればなかなか楽しく暮らしていける、そんなものばかりです。物理の醍醐味は、いろいろな現象を少数の法則や定理そして少しの仮定で取り扱うことができるところにあると思います。
公開日:2023.03.18