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山形で観測された気温40.8℃(歴代4位)に影響与えた「フェーン現象」のしくみとは?【物理の話】

Text:長澤光晴

強い風と高い山の相関関係

2016年4月現在、日本における最高気温の歴代1位は、2013年8月12日の高知県四万十市で観測された41.0℃です。これに匹敵する最高気温に、1933年7月25日に山形で観測された40.8℃(歴代4位)があります。ただし、山形の記録は、フェーン現象によるものです。そして、その現象の記録に残っている最高気温としては、歴代1位です。

そこで、この項では、フェーン現象のしくみについて考えてみましょう。

フェーンとは、もともとスイスの山岳地帯で観測される地域的な熱風のことでした。現在では、高い山から乾燥した高温の風が吹き下ろすことをフェーン現象と呼びます。

この現象は、湿った強い風と、雲のかかるくらい高い山があればどこでも起こります。ここでは、しばしば東北地方の太平洋側で起こるフェーン現象を例に考えます。

強い風に乗って、日本海上の長い距離を渡ってきた暖かい空気は、水蒸気をたっぷり吸っています。この湿った空気は山肌に沿って進み、高度を上げていきます。湿った空気の温度は、高度を100メートル上げるごとに約0.5℃低くなります。

空気は、体積が同じならば、温度の高いほうがたくさんの水蒸気を含むことができます。逆に、もともと温度が高く多くの水蒸気を含んでいた空気が冷えると、それまで空気に含まれていた水蒸気は、水滴や氷の形で吐き出されます。水蒸気が、水滴や氷片になるとき周囲に凝縮熱を吐き出して、周りの空気の温度を上昇させます。

山の頂上まで達した空気は、それまで含んでいた多くの水蒸気を雲として上空に残したまま、こんどは山肌を駆け下りていきます。この空気には水蒸気がほとんど残っていないうえ、高度が下がると空気の温度は高くなるので、山肌を駆け下りてくる空気はとても乾燥しています。

乾燥した空気は、高度を100メートル下げるごとに約1℃温度が高くなるので、山肌を下りきった空気の温度のほうが、山肌を駆け上がる前の空気の温度よりも高くなります。

つまり、フェーン現象は、湿った空気と乾燥した空気で、高度の変化に対する温度変化があることによって生じるのです。

【出典】『眠れなくなるほど面白い 図解 物理の話』
著者:長澤光晴  日本文芸社刊

執筆者プロフィール
1967年生まれ。東京理科大学理工学部物理学科卒業。北海道大学大学院理学研究科物理学専攻博士課程修了。東京電機大学工学部基礎教育センター・工学部環境化学科准教授、フランス国立極低温研究所(CRTBT)客員研究員(2001年)を経て、現在は東京電機大学工学部自然科学系列・工学研究科物質工学専攻教授。博士(理学)。日本物理学会所属。著書に『面白いほどよくわかる物理』(日本文芸社)がある。


水洗トイレ・冷蔵庫からジェトコースター、スケート、虹、オーロラ、飛行機、人工衛星・GPSまで身の回りにある物や現象のしくみが面白いほどよくわかる!文系の人でも理解できるよう、とにかくわかりやすく、またとにかく図を使ってうまく説明しました! 本書で扱ったテーマは、身の回りにそれとなくある物や現象です。それらの仕組みを知らなくても生きてはいけますが、知っていればなかなか楽しく暮らしていける、そんなものばかりです。物理の醍醐味は、いろいろな現象を少数の法則や定理そして少しの仮定で取り扱うことができるところにあると思います。