粘性――水の粘り
水はどんな形の器に入れられても、その形の通りになります。
水のような液体では、構成している分子同士の結びつきが、金属のような固体ほど強くありません。そのため、分子はわりと気ままに運動しています。それこそが、水が容器に合わせて簡単に形を変えられる理由なのです。
しかし、それでもまったくの自由というわけではありません。水の分子はお互いに弱い力(分子間力)で引き合っていますから、❶のように、なにかの拍子でいくつかの分子が特定の方向へ大きく動きはじめると、周りの分子も引きずられて同じ方向へ動きはじめます。
これが液体や気体の粘る性質、つまり粘性です。
粘り具合をあらわす係数に粘性係数があります。水飴のように粘り気が高い液体は粘性係数が大きく、水のように比較的さらさらしている液体では、粘性係数が小さいのです。また、意外に思うかもしれませんが、粘性係数は温度によって変化します。一般に液体では、温度が高くなると粘性係数は小さく(よりさらさらに)なります。
❸は、ガラス管の中の水の流れを模式的にあらわしたものです。インクなどを使って水の流れを観察すると、ガラス管の壁面に近い水ほど流れが遅く、中央ほど速いことがわかります。
この理由は次のように説明できます。
ガラス管の壁面に接している水は、壁面との摩擦でほとんど動くことができません。また、その近辺にある水も、壁面に接している動かない水に引きずられて動きにくくなっています。逆に、壁からいちばん離れている管の中央ではこの影響のもっとも少ない部分ですから、流れが最速になります。
これを真っすぐに流れている川に当てはめてみましょう。
❹のように、川の底は中央ほど深く、岸に近づくにつれ浅くなります。岸に近いところを流れる水は、岸辺や川底から大きな摩擦力を受けます。一方、川の真ん中の水面付近は底からの摩擦の影響をほとんど受けません。そのため、川の真ん中の水の流れがいちばん速くなるのです。
【出典】『眠れなくなるほど面白い 図解 物理の話』
著者:長澤光晴 日本文芸社刊
執筆者プロフィール
1967年生まれ。東京理科大学理工学部物理学科卒業。北海道大学大学院理学研究科物理学専攻博士課程修了。東京電機大学工学部基礎教育センター・工学部環境化学科准教授、フランス国立極低温研究所(CRTBT)客員研究員(2001年)を経て、現在は東京電機大学工学部自然科学系列・工学研究科物質工学専攻教授。博士(理学)。日本物理学会所属。著書に『面白いほどよくわかる物理』(日本文芸社)がある。
水洗トイレ・冷蔵庫からジェトコースター、スケート、虹、オーロラ、飛行機、人工衛星・GPSまで身の回りにある物や現象のしくみが面白いほどよくわかる!文系の人でも理解できるよう、とにかくわかりやすく、またとにかく図を使ってうまく説明しました! 本書で扱ったテーマは、身の回りにそれとなくある物や現象です。それらの仕組みを知らなくても生きてはいけますが、知っていればなかなか楽しく暮らしていける、そんなものばかりです。物理の醍醐味は、いろいろな現象を少数の法則や定理そして少しの仮定で取り扱うことができるところにあると思います。
公開日:2023.03.29