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着地でスキージャンパーがケガをしないワケは?【物理の話】

Text:長澤光晴

斜面の効用――着地時の衝撃緩和

スキージャンプは、傾斜角約35度のアプローチ斜面を滑り降り、時速約80〜90㎞のスピードで踏切台を飛び出して、着地点までの飛距離点や飛型点をV字型飛行で競う競技です。

さて、踏切地点と着地点との高度差は約40〜60mあるのにもかかわらず、なぜジャンパーは着地の際にケガをしないのでしょうか?

ジャンパーが着地の際に大きな衝撃を受けなくてすむのは、斜面(ランディングバーン)の形状に秘密があります。この斜面は緩やかなS字をしていて、着地付近の傾斜角度は約40度です。

このような形状になっているのは、着地時にジャンパーが斜面から受ける衝撃が、ジャンパーの持つ運動量(速度×ジャンパーの質量)のうち、斜面に垂直な方向の成分で決まるからです。

着地点で傾斜がついていれば、ジャンパーは斜面に対して浅い角度で着地できるので、斜面に対する速度の垂直な成分を小さくすることができます。その結果、着地時にジャンパーに掛かる衝撃が少なくてすむのです。

スキーやスノーボードで、急斜面を滑っているときに転んでも、斜面からあまり大きな衝撃を受けないのも同じ理由です。

では、着地の際にジャンパーが受ける衝撃を簡単に計算してみましょう。

ジャンパーが時速80㎞で水平に飛び出した場合、空気の影響を考慮しなければ、着地時の速さは時速約140㎞です。したがって、着地付近の傾斜角度を40度とすれば1.5~3mの高さから飛び降りた場合とほぼ同じ衝撃を受けることがわかります。

実測される着地の際の速度は時速約100㎞といいますから、先程の計算した速度よりも幾分小さな値です。これは、ジャンパーが飛行中に空気抵抗や揚力の影響を受けているためです。そのため、ジャンパーが着地時に受ける衝撃は、先程計算した値よりもずっと小さくなるのです。

【出典】『眠れなくなるほど面白い 図解 物理の話』
著者:長澤光晴  日本文芸社刊

執筆者プロフィール
1967年生まれ。東京理科大学理工学部物理学科卒業。北海道大学大学院理学研究科物理学専攻博士課程修了。東京電機大学工学部基礎教育センター・工学部環境化学科准教授、フランス国立極低温研究所(CRTBT)客員研究員(2001年)を経て、現在は東京電機大学工学部自然科学系列・工学研究科物質工学専攻教授。博士(理学)。日本物理学会所属。著書に『面白いほどよくわかる物理』(日本文芸社)がある。


水洗トイレ・冷蔵庫からジェトコースター、スケート、虹、オーロラ、飛行機、人工衛星・GPSまで身の回りにある物や現象のしくみが面白いほどよくわかる!文系の人でも理解できるよう、とにかくわかりやすく、またとにかく図を使ってうまく説明しました! 本書で扱ったテーマは、身の回りにそれとなくある物や現象です。それらの仕組みを知らなくても生きてはいけますが、知っていればなかなか楽しく暮らしていける、そんなものばかりです。物理の醍醐味は、いろいろな現象を少数の法則や定理そして少しの仮定で取り扱うことができるところにあると思います。

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