3歳で母を失った光源氏
どの帝(みかど)の御代(みよ)だったでしょうか、女御(にょうご)や更衣(こうい)が大勢仕える中に、それほど身分は高くないのに、帝の寵愛(ちょうあい)を一身に受ける桐壺更衣(きりつぼのこうい)がいました。他の女御や更衣たちの激しい妬みを受け、心労で病気がちになった更衣の里下がりが増えると、帝は余計に愛着を募らせました。更衣の父の大納言(だいなごん)はすでに亡く、後見人(こうけんにん)もおらず、母である北の方の苦労は絶えませんでした。
やがて、帝と更衣の間には、この世のものとは思えないほど美しい、玉のような男の子が生まれました。この若宮(わかみや)が物語の主人公、光源氏(ひかるげんじ)です。若宮の兄である第一皇子(のちの朱雀帝 すざくてい)は、身分の高い右大臣の姫君、弘徽殿女御(こきでんのにょうご)が産んだ子で、間違いなく東宮(とうぐう 皇太子)になると思われていましたが、弟君の美しさにはかないません。帝は兄君には公人として一通りの愛情を示しつつ、私情としては限りなく弟君をかわいがりました。
若宮が産まれ、更衣への帝の寵愛はより深くなりました。昼は帝が更衣のもとに通い、夜は更衣を清涼殿(せいりょうでん 帝のいる御殿)に呼び寄せます。身分の高くない更衣の部屋は清涼殿から遠く、他の女御や更衣たちの部屋の前を通らなければなりません。その際、通路に汚物を蒔かれたり、途中で閉じ込められたりと、壮絶ないじめを受けました。耐えかねた更衣は病の床に伏し、日に日に衰弱します。更衣の里下がりを拒んでいた帝も、許さざるを得なくなり、輦車の宣旨(てぐるまのせんじ)という特別待遇で送り出します。そのまま更衣は、3歳の若宮を残して帰らぬ人となりました。
女御・・・天皇の妻。右大臣や左大臣の娘から選ばれる。
更衣・・・同じく天皇の妻だが女御に次ぐ家柄の出自で格下である。
大納言・・・官職の一つ。
死は穢(けが)れ・・・当時、死は穢れとされ、宮中で帝以外の者が死ぬことは許されなかった。
輦車の宣旨(てぐるまのせんじ)・・・輦車は手で引く屋形車(やかたぐるま)で、宣旨とは、天皇の意向を下達すること。輦車は本来、親王(しんおう)や大臣、女御(にょうご)以上の者しか乗れない。桐壺更衣にとっては破格の待遇。
出典:『眠れなくなるほど面白い 図解 源氏物語』高木 和子 監
【書誌情報】
『眠れなくなるほど面白い 図解 源氏物語』
高木 和子 監修
平安時代に紫式部によって著された長編小説、日本古典文学の最高傑作といわれる『源氏物語』は、千年の時を超え、今でも読み継がれる大ベストセラー。光源氏、紫の上、桐壺、末摘花、薫の君、匂宮————古文の授業で興味を持った人も、慣れない古文と全54巻という大長編に途中挫折した人も多いはず。本書は、登場人物、巻ごとのあらすじ、ストーリーと名場面を中心に解説。平安時代当時の風俗や暮らし、衣装やアイテム、ものの考え方も紹介。また、理解を助けるための名シーンの原文と現代語訳も解説。『源氏物語』の魅力をまるごと図解した、初心者でもその内容と全体がすっきり楽しくわかる便利でお得な一冊!2024年NHK大河ドラマも作者・紫式部を描くことに決まり、話題、人気必至の名作を先取りして楽しめる。
公開日:2023.06.03