車争いののち御息所が生霊に
桐壺帝は譲位して院となり、源氏の異母兄である朱雀帝が即位。藤壺の産んだ皇子(表向きは桐壺院の子、実際は源氏の子)が新東宮となり、源氏は桐壺院に請われてその後見人となります。そんな中、六条御息所(ろくじょうのみやすどころ)との浮名を流す源氏を桐壺院は諫めます。源氏が前から求愛している朝顔(桐壺院の弟の娘)は、「御息所のようにはなりたくない」と、源氏に返事もしなくなりました。
賀茂祭(かものまつり)が盛大に行われ、源氏も行列に加わりました。身重の葵の上も見物に行きます。一方、六条御息所もお忍びで出かけます。ところが、六条御息所の車は、あとから来た葵の上の車に追いやられ(「車争い」)、一部が壊れて、見物もできませんでした。ひどく傷ついた六条御息所は、魂が体から抜け出すようになります。
やがて、葵の上は物の怪に取りつかれて苦しみはじめます。苦しみの中で、いつになく素直な様子の葵の上でしたが、話しかたやしぐさが六条御息所のそれであることに気づき、源氏は驚愕します。六条御息所は、衣についた芥子(けし)の香が取れないことから、自分が生霊となったことを知ります。葵の上は、苦しみの中で男児(夕霧 ゆうぎり)を出産しますが、直後に急逝し、源氏は深く悲しみます。正妻としての十分な期間、左大臣邸で丁重に喪に服したあと、自邸に戻りました。久しぶりに会った紫の上が、いっそう美しく大人びて見て、まもなく、新枕(にいまくら)を交わします。葵の上の亡きあと、夕霧の養育は祖母(葵の上の母)である大宮に託されました。
六条御息所・・・亡くなった前東宮の妃。夕顔の巻に出てきた「六条のあたりに住む高貴な人」がこの人物らしいとわかる。
賀茂祭・・・4月の第二の酉の日(源氏は5月15日)に行われる上賀茂神社・下鴨神社の例祭。
芥子・・・当時は物の怪よけに芥子の香を焚く習慣があった。
生霊と化した六条御息所
葵の上一行に屈辱的な扱いを受けた六条御息所は、深く悩み、次第に心身が不安定になっていく。やがて、懐妊して体調不良で寝込む葵の上に生霊となって取りつく。
般若で表す嫉妬と恨み
六条御息所は、源氏物語の中でたびたび物の怪として登場する。背後には家同士の争いも想定できるが、女の嫉妬の物語として読み継がれた。能曲「葵の上」では、六条御息所の生霊を般若の面で表現している。
出典:『眠れなくなるほど面白い 図解 源氏物語』高木 和子
【書誌情報】
『眠れなくなるほど面白い 図解 源氏物語』
高木 和子 監修
平安時代に紫式部によって著された長編小説、日本古典文学の最高傑作といわれる『源氏物語』は、千年の時を超え、今でも読み継がれる大ベストセラー。光源氏、紫の上、桐壺、末摘花、薫の君、匂宮————古文の授業で興味を持った人も、慣れない古文と全54巻という大長編に途中挫折した人も多いはず。本書は、登場人物、巻ごとのあらすじ、ストーリーと名場面を中心に解説。平安時代当時の風俗や暮らし、衣装やアイテム、ものの考え方も紹介。また、理解を助けるための名シーンの原文と現代語訳も解説。『源氏物語』の魅力をまるごと図解した、初心者でもその内容と全体がすっきり楽しくわかる便利でお得な一冊!2024年NHK大河ドラマも作者・紫式部を描くことに決まり、話題、人気必至の名作を先取りして楽しめる。
公開日:2023.06.12