床の高さで人と神仏の位がわかる
建物の床が平らなのは万国共通です。人類はもともと四足歩行でしたから、直立した今も岩場や斜面を歩くのは得意ではありません。だからこそ人間はフラットな道をつくり、フラットな面を重ねた階段を考えたといえます。ましてや休息の場である住まいの床を平らにするのは当然でした。
しかし日本の床はただ平らなだけでなく、3段階の高さを設けていたのです。昔の一般的な農家を見ると、土間、50センチほど高い板の間、さらに3センチ高い畳の間と、三つの高さの床があることがわかります。
このわずかな差には、目上と目下という身分差を示す役割がありました。実際、床の材料も下から順に土、板、畳と高価になっていきます。そして土間は使用人がつかい、板の間は家族、畳の間はおもに来客用だったのです。
人だけではなく、神仏も住みわけていました。土間のカマドに祀られるのは荒神や竈神、洗い場や井戸は水神です。これらは由来の明瞭でない土俗的な神々でした。神棚は板の間にあり、天照大神や氏神、国津神が祀られます。
いずれも『古事記』や『風土記』などに出てくる由緒ある神々です。畳の間には仏壇が設けられ、釈迦や先祖が祀られました。
神と仏は本来、上下差はないはずです。神(板の間)を鴨居の上、仏(畳の間)は下に祀ることが多いのは、そこを調整しているのかもしれません。
このように床の段差という些細な部分にも、人と人、そして神と人とのコミュニケーションが読み取れるのです。ちなみに土間は竪穴住居、板の間は貴族の寝殿造、畳の間は武士の書院造の名残りとする学説もあります。
出典:『眠れなくなるほど面白い 図解 建築の話』著/スタジオワーク
【書誌情報】
『図解 建築の話』
著者:スタジオワーク
身近な建物が楽しくなる。ナゾとギモンを一挙解決!屋根の形は、どうやって決まるの? 正面だけが西洋風の看板建築って、どんな構造? うだつが上がらないの、うだつって何? 日本の建築をテーマに、さまざまな建築のナゾを楽しく解き明かします。古民家から、お寺、神社、城、庭、代表的な近・現代建築まで、建築家ならではの視点で、建築物の見方、楽しみ方を図解します。理系の知識がなくても大丈夫。私たちの生活や伝統美など、暮らしの文化に根ざした日本建築のスゴさと面白さがわかります。建築士しか書けない精緻なイラストを満載。60項目で楽しむ建築エンターテインメント本です。
公開日:2021.11.10
オススメ記事
PREVIEW
10.侵略者を一掃しエジプトの栄光を回復す【世界史】