多宝塔、御陵、土俵、銅銭は〇と□で天と地を表す
相撲の土俵をよく見ると、土俵の円の外側に必ず四角い枠があります。勝負の判定には無用と思えますが、なぜこんなものがあるのでしょうか。
じつは、これは天円地方という古代中国の世界観に基づくものです。天は丸く、地は四角いとする考え方で、○と□の二つで宇宙を表現しています。土俵は小さな宇宙なのです。
建築にも天円地方は見られます。仏塔の代表的な形式である多宝塔は、仏のいる内陣は円形(天)、人が拝観する外陣は方形(地)になっており、平面図にすると土俵と同じ図形です。
外観でひときわ目を引くのは白い漆喰塗りの二つの亀腹です。1階庇の上にある饅頭形の半球体と、床下にある四角形の台座です。天円地方の思想を好んだ空海は、平面、立体ともに○と□で構成とする多宝塔を数多く建てました。
ちなみに昭和天皇の御陵も三重の方壇の上に、二重の円丘を載せた上円下方墳で、天円地方の立体的表現になっています。明治天皇、大正天皇、古くは天智天皇も同じ上円下方墳です。
先日、世界遺産に登録された仁徳天皇陵(大山古墳)の前方後円墳にも天円地方の思想が影響しているのかもしれません。そのほか、建築では正方形の礎石(基礎の石)の上に丸い柱を建てた円柱方礎、禅宗建築の正方形の礎石に半球体の礎盤を載せる柱礎も同様の形です。
建築以外でも、和同開珎や寛永通宝といった銅銭も、○と□で構成されています。なぜこうしたことをしたのでしょう。それは、この宇宙全体の同じ形(天円地方)を地上に描くことで、天から落ちてくる気を受け止め、宇宙と一体化できると考えたからだといわれています。
出典:『眠れなくなるほど面白い 図解 建築の話』著/スタジオワーク
【書誌情報】
『図解 建築の話』
著者:スタジオワーク
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公開日:2022.01.02