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お寺での参拝は正面からが必ずしも正しいとは限らない?【建築の話】

拝むのは正面からだけとは限らない

仏像を拝むときは、お堂の正面から礼拝するものと決めつけていませんか? 実は礼拝は正面からだけではありません。チベット仏教(密教)を信仰するブータンやチベットでは、仏塔の周囲を時計回りに歩きながら祈ります。イスラム教のメッカ巡礼でも人々が渦を巻いて回りながら祈っている姿が見られます。

日本も古くはそうでした。伊勢神宮の正殿、中央床下に立つ心御柱は、倭姫命が聖なる杖を突き挿し、周囲を回ったのが始まりとされます。

上賀茂神社の御阿礼祭でも、角と称する杉の神籬(神を迎えるための依代)を中心に神官が巡る儀式があります。これは社殿のなかった時代の、古い礼拝の姿を伝えるものなのです。

建築物はどうでしょう。たとえば法隆寺の五重塔は仏塔の四面に扉があり、仏像も四方を向いています。金堂も四方に扉を持ち、これらを囲む通路の名前は回廊です。断定はできませんが、回りながら礼拝した昔の人々の姿を想像することができるでしょう。

阿弥陀や大日如来仏の周囲を回る行道という礼拝は、今も各地で行われています。ほかにも、東大寺二月堂を火を掲げて回る祭事(お水取り)、堂内の二重らせんの斜路を巡る栄螺堂、お堂周囲を百度参りする京都の釘抜地蔵などがあります。

回るという行為には、円の内側を聖、外側を俗と見なす考え方があります。何度も回れば、聖域の力が強まり、神や仏を呼び込めるということでしょう。

回る礼拝が少なくなったのは、平安時代以降のこと。正方形に近かった堂宇(お堂)が扁平化し、庇が設けられたことで、正面からの礼拝が圧倒的に多くなったのです。

出典:『眠れなくなるほど面白い 図解 建築の話』著/スタジオワーク

【書誌情報】
『図解 建築の話』
著者:スタジオワーク

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