農家の庭木は植えた場所で樹種が違う
農家といえば、庭にこんもり茂る木々をイメージする人は多いでしょう。今も郊外に行けばこうした庭を見つけることができます。木に囲まれているのに、敷地内は意外なほど明るく、そして夏は涼しく、冬は日が差し、さほど寒くはありません。
農家の庭には、日本の四季を過ごす知恵が詰まっているからです。農家の庭に植えられた木々には役割があります。シラカシ(白樫)は照葉樹なので常緑で、葉に照りがあります。庭の北から西へL字形に列植すると、冬、風を防ぐと同時に、照りのある葉が太陽光を反射し、北側の部屋を明るくするのです。さらに硬い枝はクワやスキなどの農具の柄にもなります。
ケヤキ(欅)はローム層の土壌だと早く育ち、大木になります。そのため関東でよく植えられました。大木なので、東や南に植えれば夏の日差しをさえぎります。熱い風も、木陰を通れば2、3度下がるようです。落葉樹なので、冬の日差しは問題ありません。
母屋の裏は、よく竹が植えられました。竹はカゴや柄杓、竹ボウキの材料になります。土壁の下地骨( 木舞)、茅葺屋根の下地の桟も多くは竹でしたから、生活用具も住まいも自家製でまかなう上でも必需品だったのです。
成長の早い竹があれば、木々を必要以上に伐採せずにすみますし、土に埋めた食物屑を素早く分解するという利点もありました。
農家ではシソ、山椒などの薬味、梅や柿といった果実も育てており、地産地消ならぬ、家産家消を実現したのです。このスタイルは庭を持つ個人宅に今も受け継がれています。
出典:『眠れなくなるほど面白い 図解 建築の話』著/スタジオワーク
【書誌情報】
『図解 建築の話』
著者:スタジオワーク
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公開日:2022.01.12