防水はピッタリ塞ぎ、雨仕舞は空洞を設けて風で乾かす
日本は雨の多い国です。建物は雨水を侵入させないことが重要でした。しかし、日本で初めて屋上に防水材がつかわれたのは1905年と、比較的最近のことです。それまでの長い間、大工や職人たちがさまざまな工夫を凝らしてきました。いわゆる「雨仕舞」と呼ばれる技術です。
防水と雨仕舞はよく似ていますが、同じものではありません。防水は建物のすき間を塞ぎ、水を防ぐことです。しかし、雨仕舞はそれだけでなく、水を受けたり、導いたり、切ったり、汚れ防止につかうといった、雨に対するさまざまな対策を含みます。一部を紹介しましょう。
雨仕舞の多くは屋根、外壁、開口部、とくに屋根の棟や軒下、外壁のつなぎ部分に施されました。「名人の屋根瓦はすき間だらけ」という言葉があります。木造住宅にとって湿気は家を傷める大敵です。そこで、葺き土が吸収できる程度の雨水をあえて入れる微妙なすき間をつくり、かわりに風をとおし、室内を乾かしたのです。
壁の下見板も同様で、板の重ね目から風を入れます。これも隙間をあける考えです。水を切るという発想も雨仕舞の特徴です。突き出した庇で、雨水が壁にかかるのを避けたり、窓ガラスをつたう雨のしずくを窓台下の皿板で切り、外壁に雨筋が付くのを防ぎます。RC造マンションのバルコニー裏(天井)の溝も水切りです。角を回り込んできた雨水をこの溝で切っています。
そのほか、地面からの跳ね上がりから土壁を守る腰壁も雨仕舞といえるでしょう。防水と雨仕舞それぞれ利点と欠点を知り、上手く組み合わせるのが賢明です。
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「うだつが上がらない」は建築からうまれた言葉?
本書、「図解 建築の話」では建築について様々な知識を提供していますが、ここではその中でも日常生活でもなじみのある「うがつが上がらない」という言葉について、ご紹介しましょう。
「うだつの上がらない人だ」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。うだつは漢字で「卯建」と書き、日本家屋に見られる設備です。うだつは防火設備だと解説されることがありますが、当初の目的は違いました。
中世から近世にかけての町家の屋根は、多くが板葺きでした。強い風にあおられると、めくれあがってしまいます。これを防ぐため、茅などを束ねて屋根を押さえたのが、うだつの始まりです。そもそも可燃性ですから、防火機能はほとんどなかったと考えられます。江戸時代に入ると、壁が漆喰塗りになり、屋根は瓦になって、町家の防火性は高まりました。しかし、軒裏部分は火が走りやすいので、袖壁を外に出し、漆喰で固め、延焼を防ぐ「袖うだつ」が登場します。
うだつが防火設備から意匠をこらしたものをにかわったわけ
このころ、うだつが防火設備になったのです。火事が多いのは冬ですから、袖うだつは冬に風が吹く側につければこと足ります。しかしそれではバランスが悪いので、厚みの違うものを両サイドにつけるようになりました。よく観察すると、風下側のうだつは薄く、風上側は火に耐えるよう厚く、つくられていることがわかります。
とはいえ、このようなうだつを設置するのにはそれなりの費用がかかります。そこから「うだつの上がっている家は成功している」というイメージが浸透し、「うだつが上がらない」という表現がうまれたようです。そのためか、現在も残っているうだつの多くは、本来の機能とは別にうだつの壁面には細かい装飾や小屋根に意匠を凝らしたものとなっています。
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【書誌情報】
『図解 建築の話』
著者:スタジオワーク
身近な建物が楽しくなる。ナゾとギモンを一挙解決!屋根の形は、どうやって決まるの? 正面だけが西洋風の看板建築って、どんな構造? うだつが上がらないの、うだつって何? 日本の建築をテーマに、さまざまな建築のナゾを楽しく解き明かします。古民家から、お寺、神社、城、庭、代表的な近・現代建築まで、建築家ならではの視点で、建築物の見方、楽しみ方を図解します。理系の知識がなくても大丈夫。私たちの生活や伝統美など、暮らしの文化に根ざした日本建築のスゴさと面白さがわかります。建築士しか書けない精緻なイラストを満載。60項目で楽しむ建築エンターテインメント本です。
公開日:2022.10.26