天の御柱を互いに逆方向に回り、出会ったところで夫婦の契りを交わすイザナキとイザナミ
イザナミノミコトは右から、イザナキノミコトは左から、二柱の神は天の御柱(みはしら)を互いに逆方向に回り、出会ったところで夫婦の契(ちぎ)りを交わす約束をしました。
二柱の神が出会うとイザナミノミコトが口を開きました。
「ああ、なんて素敵な方なのでしょう」
ついで、イザナキノミコトがいいました。
「ああ、なんて可愛らしい乙女なのだろうか」
お互いを褒(ほ)め合ったのち、イザナキノミコトは「女が先に口を開くのはよくない」といい添えたものの、二柱の神は契りを交わしました。
しかし、生まれたのは手足のない水蛭子(ひるこ)だったため、葦(あし)の船に乗せて流しました。
次に淡嶋(あわしま)を生みました。この御子(みこ)は泡のような不完全な島で、二柱の神は自分たちの子とは認めませんでした。
国生みがうまくいかないので、二柱の神は、高天の原で指示を仰ぐことにしました。
*天つ神が占いをして仰せられました。
「女神が先に言葉を発したのがよくなかった。もう一度最初からやり直しなさい」
再び下界へ降りた二柱の神は、前と同じように天の御柱を回り、今度はイザナキノミコトが先に口を開きました。
「ああなんて可愛らしい乙女なのだろう」
ついで、イザナミノミコトがいいます。
「ああ、なんて素敵な方なのでしょう」
それから再び体を求め合うと、相次いで丈夫な御子が生まれました。
*高天の原に住む神々。
【出典】『眠れなくなるほど面白い 図解 古事記』
監修:吉田敦彦 日本文芸社刊
執筆者プロフィール
1934年、東京都生まれ。東京大学大学院西洋古典学専攻課程修了。フランス国立科学研究所研究員、成蹊大学文学部教授、学習院大学文学部日本語日本文学科教授を経て、同大学名誉教授。専門は、日本神話とギリシャ神話を中心とした神話の比較研究。主な著書は、『日本神話の源流』(講談社)、『日本の神話』『日本人の女神信仰』(以上、青土社)、『ギリシャ文化の深層』(国文社)など多数。
古典として時代を超え読み継がれている『古事記』。「八岐大蛇」、「因幡の白兎」など誰もが聞いたことがある物語への興味から、また、「国生み」「天孫降臨」「ヤマトタケルの遠征」など、壮大なスケールで繰り広げられると神々の物語の魅力から、最近では若い層にも人気が広まっている。本書は神話・物語を厳選して収録し、豊富な図と魅力的なイラストで名場面や人物像を詳解した、『古事記』の魅力を凝縮した一冊!
公開日:2023.06.08