神生みで生まれた神々
イザナキノミコトは亡骸のそばで泣き崩れました。するとその涙から、ナキサワメノカミ(泣沢女の神)が生まれました。
イザナミノミコトの亡骸は、出雲(いずも)の国と伯岐(ほうき)の国の境にある*1比婆(ひば)の山に葬られました。
けれども愛する妻を失ったイザナキノミコトは、悲しみ嘆くばかりです。
そしてついに腰に帯びていた剣を抜くや、生まれたばかりの我が子に斬りかかり、ヒノヤギハヤオノカミの首をばっさりと斬り落としてしまいました。
すると、ヒノヤギハヤオノカミの*2血からまた神々が生まれます。
剣の先についた血が岩場に飛び散ると、イワサクノカミ(石析の神)など三柱の岩と剣の神々が生まれました。剣の鍔(つば)についた血が岩場に飛び散ると、そこからはミカハヤヒノカミ(甕速日の神)など三柱の雷と火の神が生まれました。さらに剣の柄(つか)からイザナキノミコトの手の指を伝って落ちた血からは、水に関わるクラオカミノカミ(闇淤加美の神)とクラミツハノカミ(闇御津羽の神)の二柱の神が生まれました。
そして、ヒノヤギハヤオノカミの頭と胸、腹、陰茎、左右の手と足からは、マサカヤマツミノカミ(正鹿山津見の神)など、合わせて八柱の山の神々が生まれました。
イザナキノミコトが使った剣の名は天之尾羽張(あめのおはばり)、別名を伊都之尾羽張(いつのおはばり)といいます。
*1 広島県に比婆郡の地名と比婆山がある。
*2 血は力の象徴とされている。
【出典】『眠れなくなるほど面白い 図解 古事記』
監修:吉田敦彦 日本文芸社刊
執筆者プロフィール
1934年、東京都生まれ。東京大学大学院西洋古典学専攻課程修了。フランス国立科学研究所研究員、成蹊大学文学部教授、学習院大学文学部日本語日本文学科教授を経て、同大学名誉教授。専門は、日本神話とギリシャ神話を中心とした神話の比較研究。主な著書は、『日本神話の源流』(講談社)、『日本の神話』『日本人の女神信仰』(以上、青土社)、『ギリシャ文化の深層』(国文社)など多数。
古典として時代を超え読み継がれている『古事記』。「八岐大蛇」、「因幡の白兎」など誰もが聞いたことがある物語への興味から、また、「国生み」「天孫降臨」「ヤマトタケルの遠征」など、壮大なスケールで繰り広げられると神々の物語の魅力から、最近では若い層にも人気が広まっている。本書は神話・物語を厳選して収録し、豊富な図と魅力的なイラストで名場面や人物像を詳解した、『古事記』の魅力を凝縮した一冊!
公開日:2023.06.13