日本最古の歴史書として知られる『古事記』(七百十二年)によると、応神天皇の時代に百済(くだら)から渡来した、王仁(わに)によって『千文字』とともにわが国にもたらされたのが、『論語』であったと記されています。
つまり『論語』は、日本人にとって最初の書物であったのです。
六世紀〜七世紀頃になると、聖徳太子が制定した十七条憲法に、『論語』を参考にしたと思われる一節を見ることができます。
十七条憲法(第一条)
一に曰く、和をもって尊とうとしとなし、さかうることなきを宗(むね)とせよ。
『論語』(学而)
有子曰く、礼の用は和を尊しとなす。
第一条に取りあげられたこの一節は、十七条憲法のなかでも重要なものと考えられていました。
以来、日本の律令時代から、『論語』は上級の官吏(かんり) たちにとっては、必読の書としての位置を占めることになるのです。
江戸時代になると、武家の子弟が学んだ藩校でも『論語』は必修科目となり、寺子屋で学ぶ子どもたちさえ『論語』を習うことになるほどに、広く庶民の間に浸透していったのです。
明治時代以後も、旧制高校での漢文といえば、『論語』が中心になっていました。
また、日本の政界・財界で活躍する指導的立場の人たちも『論語』をもとにした儒教の考え方から大きな影響を受けて、必読の書とする人も少なくはありませんでした。
開国から明治になると、西洋文明が近代化を推し進めていく原動力として取り入れられる一方で、日本の教育、天皇制を維持強化していくために、儒教的道徳による精神教育を図る方策が立てられるのです。
体制にとって都合のよいように、儒教本来の教えからはずれた内容を強調して、教育に使用したのです。
【出典】『眠れなくなるほど面白い 図解 論語』
監修:山口謠司 日本文芸社刊
執筆者プロフィール
1963年長崎県生まれ。博士(中国学)。大東文化大学文学部大学院、フランス国立高等研究院人文科学研究所大学院に学ぶ。ケンブリッジ大学東洋学部共同研究員などを経て、現大東文化大 学文学部中国学科准教授。 主な著書に『語彙力がないまま社会人になってしまった人へ』(ワニブックス)、『日本語を作った男 上田万年とその時代』(第29回和辻哲郎文化賞を受賞。集英社インターナショナル)、『日本語の奇跡〈アイウエオ〉と〈いろは〉の発明』『ん─日本語最後の謎に挑む─』『名前の暗号』(新潮社)、『てんてん 日本語究極の謎に迫る』(角川書店)、『日本語にとってカタカナとは何か』(河出書房新社)、『大人の漢字教室』『にほんご歳時記』(PHP 研究所)、『漢字はすごい』(講談社)、『語彙力のヘソ』(徳間書店刊)、『おとなのための 1 分読書』(自由国民社)など著書多数。
2500年の時を超え、「聖書」と並び読み継がれてきた孔子の言葉を著した『論語』。「人生最高の教え」と賞される、この全20章500余の短文から現代により通じる「珠玉の言葉」を厳選して紹介、図解でわかりやすくまとめた1冊!
公開日:2023.02.23
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