奇門遁甲の術にて諸葛亮、長江に東南の大風を喚ぶ
この夜、同船していたのは魯粛だった。諸葛亮のあまりの神算鬼謀に声も掠れるが、にしても「川霧になることがおわかりだったのか」と訊かざるを得ない。」
「天文に通じず、地勢を弁えず、八陣の奇門を識らず、陰陽を燮理せず、陣構えを洞観しえず、布陣に通暁せずば、将たる能がなく、凡将と言うしかない。自分はすでに三日前に、今日の濃霧を予断していたため、十万本の矢を揃える期限を三日としたのです」―――諸葛亮は笑って応えた。
これを魯粛から聞かされた周瑜は、歯の立つ相手ではないと溜息を吐つくばかり。といって、目もっ下かの敵は曹操だ。周瑜は、諸葛亮と攻めの要諦を語り合った。手の内を見せ合うと、互いに「火」であった。
曹操は、蔡瑁の弟で副将の蔡中と蔡和に裏切りを偽装させ周瑜のもとへ送る。呉軍でも、周瑜の策と同じく黄蓋が火攻めを献策。周瑜と諮って寝返りを装い、曹操に通謀する。蔡中からも、黄蓋が丞相に降伏すべしと具申して周瑜に鞭打ちの刑を受けた、との密書が届く
詭計に通じ、疑うことを善しとする曹操も、「苦肉の計」との疑念を払い、これを信じた。しかも、決定的な誤断を下す。大船団の三十隻、五十隻を一括りにして鉄の輪でつなぎ、船に弱い北方の兵士の船酔いによる不調を防ぐとともに、大きな船塊で進航しようとしたのだ。
周瑜軍の陣立ても調った。あとは曹操側に吹く東南の大風を待つばかりだ。懸念は、十一月のこの地方では北西の風が吹くことだった。ところが、諸葛亮は、言うのである。「奇門遁甲の術を会得しているので、風を喚よぶことができる。東南の風を望むなら、南屏山に台の高さ九尺の〝七星壇〞を築いて欲しい。自分は台の上で術を用いて、十一月二十日に東南の大風を吹かせてみせよう」
周瑜は、ただちに七星壇を築かせた。諸葛亮は台に上り、方角を見据えて香を焚き、鉢に水を注いで天に向かって呪文を唱えた。
黄蓋は、乾燥した蘆葦や柴を数十隻の船に積み込み、魚油を注いで硫黄や煙硝を振り撒き、油を引いた青布で覆い隠した。舳先には間断なく大釘を打ち込み、曹操への合図に青龍旗を立てた。船尾には逃げ戻るための走舸をつないである。
そよとも吹かなかった風が、日の変わる夜半、風籟を伴い東南の大風が夜気を震わせた。それを見届けると、諸葛亮は素早く七星壇を降り、岸辺に向かった。大風が吹き始めたとなれば、周瑜が刺客を差し向けることを予見していたからだ。
岸辺には趙雲が小舟で待機していた。諸葛亮は、追っ手に振り向き、「周都督に伝えよ。しっかりと戦をされよ」との言葉を残して去っていく。
『図解 三国志』はこんな人におすすめ!
・中国の古い歴史に興味がある!
・昔の人は何のために争っていたのか?
・三国時代や格言について学びなおしたい
と感じている方には大変おすすめな本です。
魏・蜀・呉、三国の興亡を描いた『三国志』には、「桃園の誓い」「三顧の礼」「出師の表」「泣いて馬謖を斬る」など心打つ名場面、また「水魚の交わり」「苦肉の策」「背水の陣」「髀肉の嘆」など名言や現代にも通じる格言も数多く登場する。また、曹操、劉備、孫権、孔明、関羽、張飛、趙雲、周瑜、司馬懿など個性豊かで魅力的な登場人物に加え、官渡の戦い、赤壁の戦い、五丈原の戦い等、歴史上重要な合戦も多い。英雄たちの激闘の系譜、名場面・名言が図解でコンパクトにすっきりわかる『三国志』の決定版!
シリーズ累計250万部を突破した「図解シリーズ」の読みやすさ
図解シリーズは、右側に文章、左側に図解で解説という形で構成されているので、本が苦手な人にも理解しやすい内容です。
図解シリーズには、健康・実用だけではなく大人の学びなおしにピッタリな教養のテーマも満載。さくっと読めてしまうのに、しっかりとした専門家の知識を身につけることができるのが最大の魅力です!
気になる中身を少しだけご紹介!中国では、「革命」によって新たな王朝に禅譲されるのが約束事
『三国志』は「紀伝体」で書かれました。帝の記録「本紀(略して紀)、それ以外の人物の記録「列伝(略して伝)」で構成される歴史書です。陳寿は『三国志』を書くに際してあれこれ惨憺したらしい。魏の曹操(155~220)没後、息子の曹丕(187~226)が皇帝を名乗り、であればと蜀の劉備(161~223)、次いで呉の孫権(182~252)も皇帝を名乗った。
でも、三国に帝(皇帝)がいるというのは古来の中国ではあってはならないこと。天が命じた天子に地上を治めさせるので、天子は一人でなければならなかった。しかし、その天子が徳を失えば、徳のある天子に禅譲することになります。だから陳寿は、後漢の献帝(181~234)から禅譲(実際は簒奪)されたとする魏を正統とすることによって、魏から禅譲(これも簒奪)されたとする西晋を正統とせざるを得ない。
ほんとうは後漢の正統を継いでいるのは、漢王室の末裔とされる劉備が興した蜀と思っていても、陳寿はそうは書けない。故国蜀の滅亡で晋に職を求め、史官として三国の歴史を書くために仕えている身としては、晋朝廷から覚えめでたくあらねばならない、きっとそう悩んだ。
結局、陳寿は「魏書」に「本紀」を置かざるを得ず、「武帝紀(曹操)」「文帝紀(曹丕)」から最後の皇帝「元帝紀(曹奐)」まで著しました。じゃあ、劉備や孫権をどう扱ったか?「蜀書」に「先主伝」を立て、劉備を“先主”と呼ぶ一方、「呉書」の「呉主伝」では孫権は一貫して“権”。「列伝」では当該人物名を生前名の諱で呼ぶのが原則なのに、劉備に関してはその慣例を無視。まさに陳寿は蜀びいきなんですね。
★三国志演義の物語
★赤壁の戦いの真実とは?
★三国志の始まりとは
★知っておきたい軍事制度とは
などなど気になるタイトルが目白押し!
『三国志』には、心打つ名言や現代にも通じる格言が多くあります。曹操、劉備、孫権、孔明、関羽、張飛、趙雲、など魅力的な登場人物に加え、官渡の戦い、赤壁の戦い、五丈原の戦い等、名場面を図解でわかりやすく解説しているので「三国志」の学び直しに是非読んでいただければ幸いです。
【書誌情報】
『図解 眠れなくなるほど面白い 三国志』
渡邉義浩 監/澄田夢久 著
魏・蜀・呉、三国の興亡を描いた『三国志』には、「桃園の誓い」「三顧の礼」「出師の表」「泣いて馬謖を斬る」など心打つ名場面や「水魚の交わり」「苦肉の策」「背水の陣」など名言や現代にも通じる格言も数多く登場する。曹操、劉備、孫権、孔明、関羽、張飛、趙雲、周瑜、司馬懿など個性豊かで魅力的な登場人物に加え、官渡の戦い、赤壁の戦い、五丈原の戦い等、歴史上重要な合戦も多い。英雄たちの激闘の系譜、名場面・名言が図解でコンパクトにすっきりわかる『三国志』の決定版!
公開日:2023.02.28