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ヒトは300歳まで生きられる?【生物の話】

Text:廣澤瑞子

~細胞分裂の限界~

2016年における日本の平均寿命は、男性81歳、女性87歳。戦後まもない47年は50歳、54歳でしたから、70年ほどの間に男女とも30年以上も寿命を延ばしたことになります。このままのペースで行くと人間は何歳まで生きられるようになるのか、期待も膨らむというものです。「限界などなくなって、300歳でも生きられるようになる」そんな威勢のいい言葉を発する研究者もいますが、生物学的には120年くらいが限界との見方が主流です。

その根拠の一つが細胞の分裂限界です。動物は細胞分裂を繰り返していますが、一定回数を経るとその先、分裂できなくなってしまいます。ヒトの場合、その限界は50回。寿命にすれば120年です。実際、もっとも長寿の人間の記録は122歳。この限界と重なります。

でも、限界を突破する可能性はゼロではありません。細胞分裂が限界を迎える仕組みが明らかになっているからです。細胞は分裂時に、細胞の染色体末端部テロメアを短くしていきます。テロメアの短縮が限界を迎えたとき、細胞は死を迎えると考えられています。

もしテロメアの短縮を防げたとすればどうでしょう。酵素のひとつテロメラーゼはテロメアを伸長させる力を持つことから、老化防止ひいては寿命延長への期待を集めています。ただし、ガン化とテロメラーゼの活性化の関連性が指摘されていることから、寿命延長への道は容易ではありません。

寿命を決めるテロメア【眠れなくなるほど面白い 図解 生物の話】

【出典】『眠れなくなるほど面白い 図解 生物の話』
監修:廣澤瑞子  日本文芸社刊

執筆者プロフィール
横浜生まれ。東京大学農学部農芸化学科卒業。1996年、東京大学大学院農学生命科学研究科応用動物科学専攻博士課程修了。日本学術振興会特別研究員、米イリノイ大学シカゴ校およびドイツマックスプランク生物物理化学研究所の博士研究員を経て、現在は東京大学大学院農学生命科学研究科応用動物科学専攻細胞生化学研究室に助教として在籍。著書に『理科のおさらい 生物』(自由国民社)がある。


「人間は何歳まで生きられる?」「iPS細胞で薄毛を救う?」「三毛猫はなぜメスばかり?」「黒い花は世に存在しない?」ーー生命の誕生・進化から、動物、植物、ヒトの生態、最先端の医療・地球環境、未来まで、生物学でひもとく60のナゾとフシギ!知れば知るほど面白い!

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