落日のスペインに代わり民間会社主導で海外進出を図る
ポルトガルとスペインが大航海時代に突入し、夢中になっているとき、他のヨーロッパ諸国はまったく無関心であった。ベネチアやジェノバなどのイタリアの都市国家はレバノン交易で栄え、すぐに実利の伴なわない遠征に出る必要はなかった。他は国内事情に振り回されていた。イギリスの十五世紀は、バラ戦争で長い間、混乱し、ヘンリー七世がチューダー王朝を開いて絶対王政の基礎固めに着手する。
ヘンリー八世からメアリー一世の治政下でも混乱を繰り返したが、エリザベス一世になって安定し、ようやく外向けの活動に取り掛かる。ちょうどロンドン商人たちの出資で輸出拡大のために航海ルート開拓が始まろうとしているとき、タイミング良く、新大陸から金銀を運ぶスペイン船を攻撃し、略奪するイギリスの海賊船が活躍する。黄金欲と香料独占欲に刺激され、イギリス中の航海熱が一気に高まる。
再三再四、繰り返される略奪行為がイギリスに富と航海技術と制海権の確保をもたらし、ついに一五八八年、アルマダ海戦でスペインの無敵艦隊を撃破。イギリスの優位は確定する。勢い着いたイギリスは北アメリカに植民を開始する一方、アジア方面でも東インド会社を設立する。
王室が無闇に富を浪費したスペインと違って、イギリスは民間の商人主導型ビジネスで、貿易拡大で得た富を国内産業の育成のために投資するという近代資本主義の発展を促す行為であった。ここで確立された商行為が近代産業社会の原型を形作って行くのである。イギリスは「世界の工場」として隆々たる発展を遂げて行く。イギリスが近代世界の頂点に立つのである。
【出典】『眠れなくなるほど面白い 図解 世界史』
著:鈴木 旭 日本文芸社刊
いま地球規模の「人類史」という観点からも注目され、一方で一般教養、知識としても人気が高い「世界史」。世界規模の歴史を学ぶ上で大切なのは、歴史を流れとして捉えること、歴史にも原因と結果があり「なぜ」そこに至ることになったのか大もとの理由を理解すること、そして見ただけで忘れないようにビジュアルで視覚的覚えること。本書ではさらにアジアや日本の歴史とその役割にも重点を置き、最新の発見や新しい史論を取り入れた、世界史の学び直しにも、入門にも最適な知的好奇心を満足させる1冊。
公開日:2023.01.15