葉の老化現象のひとつで、養分の回収作業
紅葉や黄葉のことを昔は「もみち、もみつ」といったことから「もみぢ」、「もみじ」へと変化したといわれています。モミジとは、落葉の前に葉の色が緑から変化する現象を表し、そのように変化する植物を一般にモミジとよぶようになりました。カエデは葉の様子がカエルの手に似ていることからそうよばれるようになったといわれていますが、ふつうはイロハモミジのことで、やはり紅葉や黄葉をします。こちらはれっきとした植物名というより、ムクロジ科カエデ属という分類名の省略です。しかし、カエデもモミジもこのカエデ属の木のことを指しますが、単独のカエデやモミジという種名はありません。たとえば、日本でもっともよく見られるのは、イロハモミジ(イロハカエデとも)です。このように種名は、正式には〜カエデ、〜モミジという形になりますが、紅葉と黄葉のメカニズムは違います。
紅葉や黄葉、つまり「紅葉」はなぜ起きるのでしょうか。秋になるとイロハモミジやイチョウ(イチョウ科)などが一斉に紅葉してわたしたちの目を引きます。常緑樹の葉でも紅葉するものがありますが、秋の紅葉の時期と違ったり緑の葉と一緒の時期だったりして目立ちません。紅葉は葉の老化現象のひとつです。葉が緑のままでいると、日差しが弱くなってきても、光合成がある程度進みます。しかし、葉には蒸散作用もありますから、葉が緑色のままでいると冬の厳しい季節に水不足になって枯れる可能性があります。そこで紅葉して落葉の準備に入ります。この準備作業が紅葉として現れるのです。さらに紅葉はそれまでに光合成で作られた養分の回収作業にもなっていて、ほかに無機養分の窒素が回収されます。
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植物にも血液型があるってホント?
わたしたちの体を流れる血液中の赤血球に含まれるヘモグロビンを調べると、分子が植物の葉緑素、クロロフィルとそっくりです。違うのは、真ん中にある元素がヘモグロビンは鉄、クロロフィルはマグネシウム、たったそれだけの差です。それなら植物には、人間と同じような血液型があるのでしょうか。じつは、血液型をもつ植物はけっこうあります。人間の血液中は血中の「糖たんぱく」の種類で決まります。1割くらいの植物は、人間と似た糖たんぱくをもっていることが知られています。植物の血液検査の結果、O型やAB型が多く、たとえばダイコンやキャベツはO型、ソバはAB型となるそうです。植物を切っても動物のように出血しませんが、動物と植物の基本的な生き方には似たところがあります。マメ科植物には、ヘモグロビンに似たクロロフィルのほかに、レグヘモグロビンがあります。名前からわかるように、レグヘモグロビンはヘモグロビンに似た働きをします。それは両者ともに酸素を運ぶ役割をしていることです。
では、レグヘモグロビンはいつ酸素を運ぶのか。まず、マメ科植物には根に丸い「根粒」とよばれるコブがたくさんあります。この中に「根粒菌」というバクテリアがいて、空気中から窒素をマメ科植物に供給します。代わりにマメ科植物は、根粒菌にすみかと栄養分提供しますから、マメ科植物と根粒菌は「共生」という互いに利益を得る関係です。しかし、根粒菌が窒素固定をするときにジレンマが生じます。根粒菌は窒素固定に必要なエネルギーを確保するために酸素呼吸をしますが、窒素固定に必要な酵素は、酸素があると活性を失うのです。そこで、マメ科植物はレグヘモグロビンを根粒菌に送って、素早く余分な酸素を運んで取り除きます。
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執筆者プロフィール
植物学者・静岡大学教授。1993年、岡山大学大学院農学研究科(当時)修了。農学博士。専攻は雑草生態学。1993年農林水産省入省。1995年静岡県入庁、農林技術研究所などを経て、2013年より静岡大学大学院教授。研究分野は農業生態学、雑草科学。
【書誌情報】
『眠れなくなるほど面白い 図解 植物の話』
稲垣 栄洋
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公開日:2023.06.25