クローン植物だから、性質や成長のしかたが同じ
世界(といっても北半球の温帯地域)には、およそ100種の桜の野生種があり、その1割の10種が日本の野生種です。日本ではこの10種からの変種が100種以上自生し、200種以上の栽培品種があるといわれています。
染井吉野は江戸時代末期につくられた栽培品種のひとつで、日本の野生種、大島桜と江戸彼岸をかけ合わせて生まれました。
染井吉野の片親である大島桜は、白く大きい花弁が美しかったので、鎌倉時代以降いろいろな品種が大島桜から生まれました。
もう片方の親、江戸彼岸は、赤みのある小さい花です。長命で大きく育つことから、天然記念物となる名木が多い品種です。
染井吉野は日本の桜の2つの名花から生まれた、由緒正しい名花ということになります。
染井吉野は自家受粉ができないので、接ぎ木によって増やします。接ぎ木で増える植物はクローン、すなわち遺伝子が全く同じです。したがって染井吉野は、一斉に咲いたり散ったりすることになります。葉が出る前に木が花で美しく覆われるので、人気が出て全国各地に広まりました。
しかし染井吉野の親については、長年疑問がかけられていました。大島桜については異議がなかったのですが、江戸彼岸が本当の親なのか、山桜ではないのか、あるいは親は外国産なのではという問題です。国際的にも認知されず、混乱がありました。
ここで登場するのが最新のDNA分析です。2016年、形態学や集団遺伝学、分子系統学の最新の知見も加えて、従来説の通り、純国産の桜であることが確認されました。染井吉野が生まれて、実に150年たってからの科学的な証明でした。
【出典】『眠れなくなるほど面白い 図解 植物の話』
監修:稲垣栄洋 日本文芸社刊
執筆者プロフィール
植物学者・静岡大学教授。1993年、岡山大学大学院農学研究科(当時)修了。農学博士。専攻は雑草生態学。1993年農林水産省入省。1995年静岡県入庁、農林技術研究所などを経て、2013年より静岡大学大学院教授。研究分野は農業生態学、雑草科学。
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公開日:2023.04.06