栄養生殖など植物の増殖には柔軟性がある
植物には性の多様性があり、しかも性によらない無性生殖もある柔軟性があります。これを栄養生殖(栄養繁殖とも)といい、その方法も多様です。
たとえばウキクサは、まれにめしべとおしべを持った目立たない花を咲かせますが、通常は葉状体(茎の変形したもの)が次から次へと親から別れ、ネズミ算式に増えます。
タケ、ササは地下茎を伸ばして増えます。タケノコはその一例です。マダケは120年に一度いっせいに花が咲くといわれ、咲いた後は竹林全体が枯れるといいます。ササの場合は、50〜60年に一度いっせいに開花し、やはり咲いた後に枯れるともいわれます。園芸で人気のあるリュウゼツラン(アガベ)は、株分けで増えますが、自然状態では数十年(60年という説も)に一度開花し、結実後枯れます。
栄養生殖で増える植物は遺伝的には同じクローンで、種子ができるまで長期間かかりますので、遺伝的多様性はどうなっているのかなどの点は、現在DNA分析などで研究されています。
身近な例では、セイヨウタンポポがあります。これはネガティブな意味でスーパー帰化植物といわれ、日本の在来種の生育地に侵入して在来種と交雑し、雑種を作ります。繁殖力が強く、種子がなくても、芽があれば、そこから増えることができます。また花粉ができなくても、勝手に処女生殖して種子を作るので、どこにでも生え、しかも冬も咲くことが多いので、1年中花を咲かせます。
栄養繁殖する植物には、ユリやヒガンバナのように、球根などの地下茎で増えるもの、根が肥大してできたサツマイモのように根で増えるもの、葉が落ちてそこから芽が出て増えるハカラメなどという植物さえあります。
【出典】『眠れなくなるほど面白い 図解 植物の話』
監修:稲垣栄洋 日本文芸社刊
執筆者プロフィール
植物学者・静岡大学教授。1993年、岡山大学大学院農学研究科(当時)修了。農学博士。専攻は雑草生態学。1993年農林水産省入省。1995年静岡県入庁、農林技術研究所などを経て、2013年より静岡大学大学院教授。研究分野は農業生態学、雑草科学。
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公開日:2023.04.27