断食のほかに食を禁じられている食材がある
ムスリムにとって、イスラム暦9月(ラマダーン月)は特別な期間となっています、ムハンマドが、アッラーから最初の啓示を下された月だからです。そのためムスリムは心身の修養をすることを求められます。その具体的な行為が前項の「五柱」の一つである断食です。『クルアーン』には、「信徒の者よ、汝らは自制ということを学ぶために断食しなければならない。……断食は定められた日数である」と述べられています。
断食は、ラマダーン月の30日間、日の出から日没までの間はいっさいの食を断ちます。さらに水やお茶を飲むことや喫煙も禁じられています。そのかわり、日が沈んでから夜明けまでの間の飲食は許されています。
ムスリムの食生活については、彼らが豚を不浄な動物として口にしないことは有名です。一説には、高温で過酷な自然条件のもとで、脂肪の多い豚肉は腐敗しやすいからだともいわれています。
このほか、動物の血やアルコール飲料も口にしません。また、豚肉以外の動物の肉も、屠殺(とさつ)の前に祈りを唱え、頭をメッカのほうに向けて殺すという、一定の作法にのっとったものでなければ食べることができません。
こうして正式な作法で殺された動物は、「ハラール(禁じられていない)」と呼ばれる食べ物に含まれることになります。
一方、食べることが許されていない食品は「ハラーム」と呼ばれています。「ハラール」と「ハラーム」 、わずか一字の違いですが、ムスリムにとっては大変な違いということになります。
【出典】『眠れなくなるほど面白い 図解 世界の宗教』
監修:星川啓慈 日本文芸社刊
執筆者プロフィール
1956年生まれ。1984年、筑波大学大学院哲学・思想研究科博士課程単位取得退学。1990年、日本宗教学会賞受賞。現在、大正大学文学部教授。博士(文学)。専門は宗教学・宗教哲学。主な著書に、『言語ゲームとしての宗教』(勁草書房、1997年)、『宗教と〈他〉なるもの』(春秋社、2011年)、『宗教哲学論考』(明石書店、2017年)、『増補 宗教者ウィトゲンシュタイン』(法藏館、2020年)など。
「イエスはどんな教えを説いたの?」「ムスリムは日々どんな決まりを実践するの?」「仏教はどのようにして広まっていった?」 世界の宗教は謎だらけ! 教義、教典から歴史まで大宗教の中味がわかる! キリスト教、イスラム教、仏教の世界3大宗教を中心に、神道、ヒンドゥー教、ユダヤ教、シーク教、儒教、道教、ジャイナ教、ゾロアスター教、バハーイ教、新宗教を加え、世界の大宗教をまとめてイッキに解説します。52の素朴な疑問形式で構成。図解やイラストを交え、疑問にズバリ答えます。初めての人でも世界の宗教の教えやエピソードを楽しく学べるエンターテインメント教養本です。宗教を理解し、生き方のヒントを得るため、ニュースや国際情勢を理解するため、海外の人と交流するためにも役立つ1冊です。
公開日:2022.04.18