「戦うか、逃げるか反応」で見る不安障害
生物が生きのびるために必要とされる「戦うか、逃げるか反応」が、不安障害を抱える人にとっては、大きな負担となっています。
不安がもたらす生理学的な反応
人間が不安を感じたときに起こる身体的な反応には、動悸、発汗、息切れなどがあります。こうした身体状態は、安全が確保されていない状態だと感じると、生理学的な反応として人間以外の動物にも起こることであり、「戦うか、逃げるか反応」(Fightor Flight Response)と呼ばれています。
例えば、動物が天敵から襲われそうなとき、その危機から「逃げるのか、あるいは戦うのか」という選択を迫られます。すると、筋肉に血液を送るために心拍数が上昇、活動によって体温が上がりすぎないように汗を出し、酸素を多く取り込むために呼吸が速くなります。全身の能力が、体を動かすことに注がれるので、内臓は不要な消化を止め、唾液が減って口が渇きます。さらに脳や目、耳、鼻といった五感は、相手や周囲の状況に集中し、敏感になります。
この「戦うか、逃げるか反応」は、人間を含む動物が生きのびるために必要不可欠な生理的反応ですが、心身には大きなストレスとなるので、ある程度短い時間で終わらなければなりません。そうでないと、反応自体が生きることへの脅威になってしまうのです。不安障害がやっかいなのは、まさにこの点にあるといえるでしょう。
不安の対象を正しく認知することが大切
不安障害を「戦うか、逃げるか反応」を通して考えてみましょう。「主な不安障害の種類」で紹介したように、「社会不安障害」の中で多いのが「スピーチ恐怖」のケースです。
大勢の前で話すとき、緊張によって起こる典型的な身体症状――動悸、発汗、息切れ、口が渇く――これらは、「戦うか、逃げるか反応」とほぼ同じです。実際、このような経験をしたことがある人は多いでしょう。
ほとんどの場合は、スピーチが終われば緊張から解放され、脱力感とともに「慌てて早口になった」「原稿を飛ばしてしまった」などと反省する程度のことです。
ところが不安障害の人は、スピーチの内容や話し方ではなく、「戦うか、逃げるか反応」に注目し、恐怖を感じます。スピーチ中に必ず「反応」が出て、それを聴衆が笑うと思い込んでしまうのです。そして、「やはり反応が出てしまった」と自己嫌悪し、さらに恐怖を強めるという悪循環に陥り、緊張から解放されることはありません。
そもそもこの「反応」は、熱いものを触ったときの反射行動と同じで、誰にでも起こることで、それを不安の対象としてしまうのは、「熱いものを触っても平気でいれば笑われない」と思っているのと同じことです。本人も気づいていないこの「認知のゆがみ」については、次の章で取り上げます。
不安が体に反応をもたらすしくみ
極度の緊張状態が続くと、当然、体は疲労します。また、心臓や血管を酷使することになり、循環器系の疾患につながる可能性もあります
CHECK!
生物にとっては必要不可欠な「戦うか、逃げるか反応」が不安障害の人にとっては「恐怖の対象」となってしまう
【出典】『心の不調がみるみるよくなる本』ゆうきゆう:監修
【書誌情報】
『心の不調がみるみるよくなる本』
ゆうきゆう:監修
現代増加の一途をたどる「不安障害」。
不安障害とは払拭できないほどの不安や恐怖の感情が過剰に付きまとい、日常生活に支障をきたすような状態になることです。
一概に不安障害といってもさまざまな症状があり、突然理由もなく激しい不安に襲われて発作などを引き起こす「パニック障害」や、謎の強迫観念にとらわれて意味のない行為を繰り返す「強迫性障害」、若者に多く人前にでると異常に緊張して体調を崩す「社交不安障害」などタイプは異なります。
本書ではそのような不安から引き起こされる心の不調について、症状例をそえて専門医がわかりやすく解説。自分の「不安障害度」を簡単にチェックできる診断テストも掲載。病気を自覚し、その症状にあわせた治療を受けられるようサポートする一冊です。
公開日:2024.12.10