20日からの日本シリーズに挑む
巨人と阪神のマッチレースが予想された今季、終わってみればセ・リーグを制したのは東京ヤクルトだった。
ネット上に<2021プロ野球 解説者による順位予想>というサイトを見つけた。
ほとんどの評論家の予想が掲載されているのだが、セ・リーグ優勝予想は1位が巨人で55%、以下、阪神34%、広島6%、中日5%、横浜DeNA1%と続いた。
ひとつだけ、0%の球団があった。すなわち0票。それがヤクルトだった。
2年連続最下位に沈んでいた球団だから、この低評価もやむを得まい。
しかし、まさか優勝とは……。チームを4度のリーグ優勝、3度の日本一に導いた野村克也も、草葉の陰で喜んでいるに違いない。
そのノムさんの教え子が監督の高津臣吾である。本人も「野村さんとの出会いがなかったら、今の僕はなかった」と語っている。
「決め球のシンカーも、野村さんから“もっと遅い球を投げろ”と言われたのがきっかけ。最初は半信半疑だったのですが、あのボールは僕にとって大成功でした」
高津が出現するまでクローザーの条件は、150キロ台の快速球と三振を奪えるウイニングショットを持つことだった。
ところが高津は“遅いシンカー”を武器に、日米で通算313ものセーブを積み上げてみせたのである。
ノムさんは現役時代の高津をどう見ていたのか。
<選手たちのプライバシーと仕事ぶりを、真面目な優等生、不真面目な優等生、真面目な劣等生、不真面目な劣等生っていうふうに分けて指導してたんですけど、高津は「不真面目な優等生」ですね。
私生活では、遊び心を持っていましたねえ。でもグラウンドではいい仕事をしてくれる。私は遊びを奨励する方なんです。「遊び上手は仕事上手」と言いますしね>(『ナンバー2の男』高津臣吾著・ぴあ)
選手の前では常に毅然としているノムさんだが、聖人君子ではなかった。若い頃は夜の街にも、よく繰り出していた。「遊び上手は仕事上手」とは、自分のことを言っていたのかもしれない。
ノムさんから薫陶を受けた高津だが、全てを受け継いでいるわけではない。ノムさんと選手の間には“見えない壁”が存在したが、高津は不振にあえいでいた若き主砲の村上宗隆に、トイレで「ひとりで背負い込むことはない」とアドバイスをするなど、兄貴分的な一面も持ち合わせている。令和の時代に適した指揮官と言えるだろう。
(初出=週刊漫画ゴラク2021年11月12日発売号)