山下泰裕氏と橋本聖子氏が開会式へ
昨年末、政府は既に北京冬季五輪の「外交ボイコット」を宣言していた米国、英国、カナダ、豪州らに足並みを揃えるかたちで、閣僚や政府高官らの派遣見送りを正式に発表した。
五輪の開会式に出席するのはIOC委員でもある山下泰裕JOC会長と東京大会組織委の橋本聖子会長。政府の見解は「IOCからの招待」。国からの派遣ではない、と強調したかったようだ。
3号前の小欄で、私はこう書いた。<人権重視を掲げるバイデン政権にとって、中国政府による新疆ウイグル自治区での人権侵害、香港の民主化勢力に対する弾圧は、看過できる問題ではない。そこを素通りして、のこのこ北京に出かけていけば、それこそ世界中の物笑いの種である>(週刊漫画ゴラク2022年1月7・14日号)
同盟国の米国が中国に対し、厳しい姿勢を示す以上、日本も従わざるを得ない。一方で中国を過度に刺激したくもない。「元五輪大臣」の肩書きを持つ橋本会長の開会式出席には、中国の顔を立てる意味も込められているのだろう。
このように米中両大国にはさまれた島国の外交は大変である。まさしく「あちらを立てればこちらが立たず」。この先も綱渡りのような外交が続くのだろう。
確かに聞く耳を持たない中国に、こちらを振り向かせるのは容易ではない。しかし人権は人類普遍の価値観である。
強権中国に対し、見て見ぬふりをするのは、決して許されることではあるまい。
日本国憲法の前文には、こうある。
<われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和の内に生存する権利を有することを確認する>
国際社会において、「名誉ある地位」を占めるためにも、言うべきことは言い、質すべきことは質す。中国に対し、そうした態度が望まれるのは言うまでもない。
「中華民族の偉大な復興」を旗印に掲げる習近平政権にとって、北京冬季五輪は面子にかけてでも成功させなければならない大会である。
というのも、今年秋には党最高指導部の人事を決める5年に1度の党大会が開かれるからだ。習主席は3期目も視野に入れていると言われるが、そのためにも五輪でつまずくわけにはいかないのだ。
五輪の政治利用、ここに極まれりである。
(初出=週刊漫画ゴラク2022年1月21日発売号)