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王貞治の四球論。勝つには「歩け」【二宮清純 スポーツの嵐】

Text:二宮清純

評価の対象外だった「四球」

 王貞治というと、“世界記録”の868ホームランばかりに注目が集まるが、故意(427)を含めた四球数2390もダントツである。

 おそらくプロ野球が続く限り、この記録が塗り替えられることはあるまい。

 ちなみに2位は落合博満の1475(故意160)、3位は金本知憲の1368(故意98)――。

 いつだったか、本人に、四球について聞いたことがある。

「四球数が増えると、必然的に出塁率も良くなる。しかし、この数字も、当時は全然、評価されなかった。“オマエ、ホームラン打ったのか? それとも三振だったのか?”くらいしか聞かれなかったね」

 V9時代の巨人は、犠打や進塁打も査定の対象にしていたという話を聞いたことがある。今では当たり前の話だが、当時の球界では珍しかった。

 王によると、その巨人ですら、四球は評価の対象外だった。ならば打った方が得、と思うはずだが、王は決して個人プレーには走らなかった。ボール球に手を出して、フォームを崩したくないという気持ちも、もちろんあっただろう。だが本人によると「それ以上にチームに貢献したい」という思いが強かったという。

「僕は得点が1967(NPB歴代最多)もある。ホームランによる得点を除いても、1100近く。僕は自分のバットでも、多くの走者を還してきたけど、人のバットでも、たくさん本塁に還ってきている。つまり、それだけチームに貢献してきた。その自負は持っています」

 昨シーズンのセ・リーグの球団別打撃成績をながめていて、おもしろいことに気がついた。故意も含め、四球数トップは513で優勝した東京ヤクルトだったのだ。それがリーグトップの625得点に結びついたと考えられる。

 要するにランナーをためてドカン! これがいちばん投手にダメージを与えることができる。その意味で四球もヒットも価値は同等なのだ。

 ブラッド・ピット主演の映画『マネー・ボール』で一世を風靡したアスレチックスの元GM(現在は上級副社長)ビリー・ビーンも四球数には人一倍、関心を向けていた。

 選手を獲得する時には「打率」や「盗塁数」などには目もくれず、四球数と密接に関係する「出塁率」を重視した。

 その結果、2000年代前半、資金力に劣るアスレチックスが富裕球団のヤンキースと互角に渡り合ったことはよく知られている。

 歩のない将棋は負け将棋――。将棋の世界には、そんな格言がある。「歩」を「四球」に置き換えたら、そっくり野球にも当てはまる。

(初出=週刊漫画ゴラク2022年3月11日発売号)

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