MLB選手会は世界最強の労働組合
労使が対立し、開幕延期が決まっていたメジャーリーグ(MLB)機構と選手会が、ロックアウトから99日目の3月10日(日本時間3月11日)、新労使協定で合意した。
これにより従来通り、レギュラーシーズンは162試合制で行われる。開幕は4月8日(日本時間)だ。
新労使協定での主な合意事項を見れば、痛み分けというのが妥当なところか。
メジャーリーガーの最低保障年俸は57万500ドル(約6700万円)から70万ドル(約8200万円)、さらに2026年までに78万ドル(約9100万円)に引き上げられる。
また、ぜいたく税が生じる年俸総額は従来の2億1000万ドル(約245億円)から2億3000万ドル(約269億円)、26年までに2億4400万ドル(約285億円)に引き上げられる。
選手にもっと年俸を支払ってもらいたい選手会側にすれば、ぜいたく税の基準額は高ければ高いほどありがたい。
周知のようにNFLやNHLが導入しているサラリーキャップ制を、MLBは採用していない。その代わりがぜいたく税だ。基準額を超えた富裕球団が支払うぜいたく税は、年俸総額の少ないローカル球団に分配される。こうして格差の是正を図っているのだ。
MLBは94年8月12日から翌95年4月2日まで、選手会が打ったストライキにより、232日間も、“機能不全”に陥ったことがある。
労使対立のいちばんの理由は経営者側が提案したサラリーキャップ制の導入だった。
手元に古い取材ノートがある。私のインタビューに答えてくれたのはMLBアソシエート・カウンセル(当時)のジョン・ウェストホフ。
「経営者側は総収入を50%と50%に分けるという提案をしているが、選手会側から代案が出てこない」
しかし、経営者側提案のサラリーキャップ制にはからくりがあった。高額な入場料収入を得ているスイートルームの売り上げが、総収入から抜け落ちていたのだ。
サラリーキャップ制を導入したいのなら、まずは総収入をガラス張りにすべき、という選手会側の反論には説得力があった。
このようにMLB選手会は“世界最強の労働組合”と呼ばれるくらい強い交渉力を有している一方で「グリード(欲張り)だ!」との批判もある。今回、不本意ながらも機構側の最終案を受け入れた背景には、世間の風当たりの強さもあったのだろう。MLBをして「ナショナル・パスタイム(国民的娯楽)」というが、その金看板も色褪(あ)せてきた。
(初出=週刊漫画ゴラク2022年4月1日発売号)