「あのドレッドヘアの選手」
今年から始まったラグビー・リーグワン初代王者に輝いたのは埼玉パナソニックワイルドナイツ(旧パナソニック)だった。前身のトップリーグ・ラストシーズンからの連覇となった。
プレーオフ決勝はリーグ戦2位の埼玉と同1位の東京サントリーサンゴリアス(旧サントリー)が対決し、18対12で埼玉が競り勝った。
スコアだけ見れば1トライ1ゴールで逆転という接戦だったが、埼玉の「完勝」に映ったのは試合巧者ゆえか。
試合巧者・埼玉の中心にいるのが初代MVPに選出された36歳のフッカー堀江翔太である。
ラグビーに興味のない人でも、「あのドレッドヘアの選手」と聞けば、「ああ、あの人ね」と、すぐに思い浮かぶはずだ。ちなみに、あのドレッドヘア、スクラムを組む際の武器にもなっている。
「タワシでこすられているみたいで、頭でゴリゴリやられるのが嫌みたいですよ」
堀江は2011年ニュージーランド大会、15年イングランド大会、19年日本大会とW杯に3大会連続で出場し、日本代表の7つの勝利に貢献している。
リーグワン初年度の今季、堀江は不戦敗を除くリーグ戦14試合に出場したが、先発は1試合のみ。そのほとんどが帝京大の8学年後輩にあたる坂手淳史との交代だった。
ラグビーは長い間、交代の許されない競技だった。国際試合において、選手が負傷した場合に限って交代が認められるようになったのは1968年からだ。
96年からは負傷以外での交代、いわゆる戦術的交代が可能となり、現在はリザーブ8人全員の出場が認められている。すなわち1試合で最大23人がピッチに立つことができるのだ。
とはいうものの、18シーズン続いたトップリーグで、リザーブのMVPは、これまでひとりもいなかった。逆に言えば、それだけ堀江の活躍ぶりが際立っていたということである。
プロ野球にたとえるなら先発ではなくリリーフ投手がMVPに輝いたようなものだ。相手チームにとって、途中から入ってくる「16番」ほど脅威を抱かせる選手はいなかったはずだ。
対戦相手として、最も苦しめられた選手に贈られる「プレーヤー・オブ・ザ・シーズン」に堀江が選ばれたのも当然と言えば当然か。
W杯フランス大会まで、あと1年3カ月。ベスト8以上を見据え、円熟のフッカーを、どう使うのか。ジェイミー・ジョセフHCの腕の見せ所である。
※上部の写真はイメージです。
初出=週刊漫画ゴラク2022年6月17日発売号