トラウトが長期離脱した21年は後半に失速
相棒の離脱は、初のホームラン王を狙う大谷翔平(エンゼルス)にとって大きな痛手である。
さる7月4日(日本時間)、パドレスの本拠地ペトコ・パークで大谷とコンビを組むエンゼルスの主砲マイク・トラウトが左手を負傷した。
6点を追う8回、パドレスのニコラス・マルティネスのカーブをファウルした直後、苦悶の表情を浮かべ、そのままベンチに引き上げた。
精密検査の結果、左手有鉤骨の骨折が判明し、負傷者リスト入りした。
28日現在、大谷は38本塁打で、2位ルイス・ロベルト(ホワイトソックス)の28本塁打を大きく引き離し、ア・リーグのホームランキング。
2人が揃ってホームランを打つ“トラウタニ弾”は既に今季8回。その8試合の戦績は7勝1敗。トラウトの離脱はポストシーズンゲーム進出にも黄信号を灯らせかねない。
既視感がある。トラウトが長期離脱した21年、大谷は前半だけで33本塁打を放ちながら、後半は故意四球が増え、13本と失速した。
NPB最多の通算868本塁打の記録を持つ王貞治(巨人)は、13年連続を含む15回の本塁打王に輝いている。
V9巨人のオーダーは3番・王、4番・長嶋茂雄。時折、並びが変わることはあったが、基本は“ON”だった。
果たしてOとNは、どちらが怖かったか? 私の質問に阪神のエースだった江夏豊は、かつてこう答えた。
「どちらでもない。答えはONだよ。ひとりなら何とかなるが、2人となると、そう簡単には抑えられんよ」
王が比類なきホームランバッターなら、長嶋は最強のクラッチヒッター。どちらかを抑えても、どちらかにはやられる。もし長嶋が後ろに控えていなければ、王があれだけのホームランを量産することはなかっただろう。
同じことは1985、86年と2年連続で三冠王に輝いたランディ・バース(阪神)についても言える。4番の掛布雅之がにらみを利かせることで3番のバースは比較的フリーハンドで打席に立つことができたのだ。
阪神が21年ぶりのリーグ優勝を達成し、その余勢を駆って日本一にまで上り詰めた85年、帰国する直前にバースはわざわざ掛布を訪ね、「カケ、ありがとう。オレはオマエがいてくれたお陰で三冠王が獲れたんだ」とお礼を口にしたという。バースは掛布の存在の大きさを理解していたのだ。
トラウトの復帰は早くて9月になる見通し。大谷にとっては試練の夏である。
初出=週刊漫画ゴラク2023年7月21日発売号(数字は日本時間7月28日現在)