5月に「ティア1」に昇格した日本
ラグビーW杯フランス大会を戦っている日本代表のスローガンは「Our Team」だ。このourは何を意味しているのか。元キャプテンのリーチマイケルは「自分たちのチームを突破して(日本)全員のチーム。日本を応援している人たちのチームでもある」と説明した。
もちろんourの中には、弱かりし頃の日本代表を支えてきたOBたちも含まれる。先人たちの奮闘がなければ、今年5月に日本が「ティア2」から「ティア1」(ハイパフォーマンス・ユニオン)に昇格することはなかっただろう。
ちなみに、日本が加わるまで「ティア1」は欧州6カ国対抗のイングランド、スコットランド、アイルランド、ウェールズ、フランス、イタリア、南半球4カ国対抗のニュージーランド、オーストラリア、南アフリカ、アルゼンチンの10カ国・地域で構成されていた。
ティアは英語で「階層」を意味する。いわば「ティア1」はラグビーにおける上流階級。その仲間入りを果たしたことで、日本ラグビーフットボール協会の岩渕健輔専務理事は、「ワールドラグビーの決戦の場においてジャパンラグビーの存在感が増す」と語った。
実際、ワールドラグビー理事会における日本の投票権は、2票から3票に増えた。発言力が増すかわりに、責任も重くなってくるということだ。
ラグビーW杯は1987年、オーストラリアとニュージーランドが他国を招待するかたちでスタートした。
記念すべき第1回大会で日本代表のキャプテンを務めたのが、世界選抜にも選出されたことのある林敏之だ。
3戦全敗に終わったものの、当時、世界最強と呼ばれたオーストラリア相手に23対42と健闘した。
試合前、林は仲間たちを前に、「このままじゃオレたちは日本に帰れないぞ!」と号泣しながら訴えた。
「勝てるとしたら初戦」と考えていた米国に18対21で競り負け、続くイングランドには7対60で大敗。サムライらしく最後まで勇敢に戦い、美しく散ろう――。
「僕らからしたら、あれが当時できる最高の試合。敗れはしたけど十分、手応えがありました」
ラグビーは冬の時代が長く続いた。95年、南アフリカで行われた第3回大会では、ニュージーランドに17対145と大惨敗を喫した。
今の代表選手の中に、“ブルームフォンテーンの悪夢”を知る者はいない。
だからこそ、語り継がなければなるまい。長い冬の時代を経て、今があるということを……。
初出=週刊漫画ゴラク2023年9月22日発売号