出塁率4割3厘はリーグトップ
18年ぶりのリーグ優勝、38年ぶりの日本一。優勝の隠語である「アレのアレ」(日本一)まで達成したトラの4番・大山悠輔の今年の仕事ぶりを一言で表すなら「忍」か。
今季はレギュラーシーズン143試合、日本シリーズを含むポストシーズンゲーム10試合、計153試合全てに「4番・一塁」として出場した。打率2割8分8厘、19本塁打、78打点。
打撃成績は、やや物足りない。前年は打率こそ2割6分7厘ながら、23本塁打、87打点をマークしている。
それでいて、今季の出塁率4割3厘はリーグトップ。リーグ最多の99四球が出塁率を押し上げた。
少々強引でも自分のバットでケリをつけたい――。それが4番打者たるものの本懐だ。
今季、大山がそうした思いを封印した背景には、「四球もヒットも一緒」という岡田彰布監督の野球観への共感に加え、優勝への強い渇望があったからだろう。
日本一直後の独占手記で、彼はこう述べている。
<4番という打順は打線の真ん中。自分のところで攻撃が途切れてしまうと、打線全体が「線」ではなく「点」になってしまう。出塁することで「点」ではなく「線」、本当の打線として機能することができたと思う>(スポニチ紙11月6日付け)
4番がどっしりと構え、じっくりとボールを見る。ピッチャーにとって、これほど嫌なことはない。大山はシーズンを通じて、この作業を徹底して行ったのだ。誰にでもできることではない。
ところで岡田の四球重視策は、今に始まったことではない。たとえば、外国人選手の選び方。自著『そら、そうよ 勝つ理由、負ける理由』(宝島社)で、<ボール球を振らないことが、日本で成功するいちばんの秘訣だ>と述べている。<契約の仕方1つで働かせることが可能になる。簡単に言うと、四球にも出来高の契約を付けてやるのだ。外国人の野手と契約する際に、本塁打や安打、打点に出来高が付くのはもはや当たり前だが、日本の球団は四球については重要視してこなかった。>
85、86年と2年連続で三冠王に輝いたランディ・バースには“史上最強の助っ人”のイメージが強いが、彼はボール球に安易に手を出さないことでも有名だった。
今季の阪神は僅差のゲームに強く、1点差の試合は29勝17敗。ポストシーズンも含めた大事な場面でひとつの四球がモノを言った。こうした岡田イズムを、指揮官の分身としてチームに浸透させた大山の功績は大きい。立派な”トラの4番”である。
初出=週刊漫画ゴラク2023年11月24日発売号