日本人4人で4団体を独占
いつの間にか日本はボクシングの“バンタム級王国”だ。
さる5月6日、東京ドームで世界4団体スーパーバンタム級統一王者の井上尚弥が、WBC同級1位のルイス・ネリ(メキシコ)を6回TKOで破った一戦は、歴史的な名勝負として、この先ずっと語り継がれることだろう。
1回に左フックでアゴをすくわれ、初ダウンを喫したが、カウント8まで待って立ち上がり、インターバルの間に場内モニターに映し出されるダウンシーンを見て、ネリのパンチの軌道を確認したという。
2回に左フックでダウンを奪い返してから後は、全く危なげなかった。最後はネリの左フックを右ヒジでブロックし、返す刀で顔面にナックルを叩き込んだ。世界最高峰の技巧である。
この日、日本に異色の世界バンタム級王者が誕生した。K-1出身の武居由樹がWBO王者のジェイソン・モロニ―(オーストラリア)を判定で下し、載冠を果たした。
次の試合で石田匠の挑戦を退けた井上尚弥の弟・拓真(WBA王者)、既に3階級を制覇しているWBC王者の中谷潤人、エマヌエル・ロドリゲス(プエルトリコ)からIBF王座を奪った西田凌佑。全ての階級を通じ、日本人4人で4団体を独占するのは、これが初めてだ。
バンタム級における、初めての日本人世界王者は“狂った風車”と呼ばれたファイティング原田である。
1965年5月18日、“黄金のバンタム”の異名をとるデビュー以来50戦無敗のエデル・ジョフレ(ブラジル)に挑戦し、2対1の判定でベルトを奪った。
精密機械のようなボクシングを展開するジョフレだが、原田が巻き起こした乱気流にn飲み込まれ、最後まで主導権を握れなかった。
1年後の防衛戦でも原田はジョフレを返り討ちにし、その名声は世界に響き渡った。
ボクシング史上初の日本人同士による世界王座統一戦の舞台もバンタム級だった。
94年12月4日、WBC世界王者は薬師寺保栄。対する辰吉丈一郎の肩書は暫定王者。人気の面では辰吉の後塵を拝する薬師寺だが、地元の名古屋で負けるわけにはいかない。
薬師寺は辰吉の挑発に乗らず、冷静に試合を運んだ。基本に忠実なジャブとワンツーで、辰吉の目と鼻を狙い撃ちにし、2対0の判定勝ちを収めた。
現在、バンタム級には元WBCフライ級王者の比嘉大吾やキックボクシングで敵なしを誇った那須川天心らが虎視眈々と王座を狙っている。勢力図は塗り替わるのか、それとも…。
初出=週刊漫画ゴラク2024年5月31日発売号