100℃を超える極限的な環境でも生きられる微生物
過言ではないかもしれません。大気中、水中、土中、私たちの皮膚やお腹のなかなどさまざまなところに微生物は存在します。ふつうの生物が生きられないような場所にも微生物は存在しています。
例えば、通常より高い温度を好む微生物を好熱菌と言います。そのなかでも50℃以上でしか生育できない微生物を高度好熱菌、80℃以上の温度で生育できるものを超好熱菌と呼びます。これらの好熱菌は、温泉や海底火山の噴出孔などで生きていくことができます。
私たちの体のなかで働いているタンパク質は、温度をかけると元の形のままとどまっていられなくなります。これを変性といいます。卵の白身はほとんどタンパク質と水でできています。ゆで卵や目玉焼きをつくるときに熱をかけていくと、透明な白身が白濁していきます。これがタンパク質の変性です。
好熱菌のタンパク質は、さまざまな方法で熱による変性を受けにくい構造をとっています。また、体の構造を高い熱を受けても生きていきてけるように進化させています。その結果、100℃を超えるような条件でも生育可能なものもあります。コロナウイルスでは、PCR検査という言葉がよく使われていますが、このPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)を可能にしたのも好熱菌がつくるDNA複製酵素があったからなのです。
極端な環境でも生きていける微生物を極限環境微生物と呼ぶことがあります。温度以外にも好アルカリ性菌、好塩性菌、耐冷菌、放射線耐性菌などが知られています。
好アルカリ性菌は、高い㏗を好んで生育し、私たちの皮膚が溶けてしまうような㏗12以上の強アルカリ条件でも生育ができる微生物もいます。耐冷菌のなかには、0℃以下でも生育が可能なものが見つかっており、マイナス20℃以下でも生育できる微生物が報告されています。好塩菌のなかには20%以上の食塩を含む溶液中でも生育が可能な微生物が存在し、イスラエルの死海など塩湖でも見つかっています。これは、醤油の食塩濃度よりも高いなかで生育していることになります。
それぞれの微生物は、自らの生きる環境に合わせて進化していると考えられ、その結果、ほかの生き物が生きていけないような環境下で、自分たちだけが優勢に生き抜く条件を整えたのでしょう。
【出典】『眠れなくなるほど面白い 図解 微生物の話』
著者:山形洋平 日本文芸社刊
執筆者プロフィール
1961年生まれ。東京農工大学農学部農芸化学科卒業。東北大学大学院農学研究科農芸化学専攻(博士課程後期)修了。東北大学農学部助手、東京農工大学共生科学研究院准教授、東京農工大学大学院農学研究院准教授を経て、現在は東京農工大学大学院農学研究院教授。農学博士。趣味は、醗酵食品の食べ歩きと醸造飲料の飲み歩き。
「微生物」は私たちの身の回りにあふれている! ウイルス、細菌(バクテリア)、菌類(酵母、カビ、キノコ等)など、とても小さく顕微鏡でなければ見えないけれど、私たちの生活のさまざまに関係、影響している。「ウイルスの正体は?」「毎日のように口にする味噌、醤油、酢などの調味料、またビール、ワイン、日本酒をつくる醗酵とは?」「私たちのお腹の中に棲む数百種類100兆個もの細菌の役割は?」———地球上に最初に誕生し、ヒトをはじめとするあらゆる生物の進化や暮らしに影響を与え続けてきた存在でありながら、まだまだ多くの謎や不思議に包まれいる「微生物」。その謎と不思議をわかりやすく図解で伝える。微生物のことがわかると、生活上のいろんな疑問もすべて納得、解決する!
公開日:2022.05.08