「立位姿勢」の研究結果からわかること
●正しい姿勢の定義とは?
二足歩行へと進化した人間が、脳を安定させて「立つ」ための姿勢について考えてみましょう。すべての人の立ち姿がまったく同一ではないということは、誰もが知っています。年齢、性別、生活環境によっても立ち姿は違って見えます。その姿勢によっては、人に過度の負担をかけることもあり、それが腰痛などを引き起こしているとも言われています。
仮に性別も年齢も育った環境も職業も統一したら、「立ち方」は誰もが同じになるのでしょうか。そもそも、正しい姿勢とはいったいどんな姿勢でしょうか。唯一無二の理想的な正しい姿勢は存在するのでしょうか。
●あるべき「理想姿勢」は4つのタイプそれぞれに存在する
近現代になると、人間の立位姿勢に関する研究が行われるようになりました。1949年に発表されたF.P.ケンダルらによる研究結果によれば、「人によって差異がある立位姿勢には一定の傾向がある」ということがわかりました。それが、よく引用される4つの立位姿勢図です。彼らが評価されるべきは、相当数の人体データを蓄積し、大別して傾向を見出したことです。
今でこそ、インターネットで世界中のさまざまな情報を得ることができるようになりましたが、私が二十歳前後の30、40年前には、自分の研究が正しいかどうかを検証しようにも情報が乏しく、だからこそ、最初にこのケンダルらの立位姿勢図を見つけたときには、まさに発見した心持ちでした。
そこには、背骨や骨盤の形状も共通点を有した、4つのタイプ(=4スタンス)が描かれていました。幼い頃から人の動きには違いがあり、それが4つに大別されることを認識していた私にとって、この事実(エビデンス)は、このあと説明していく「4スタンス理論」の根拠のひとつになっています。彼らの研究結果には、「なぜこの4パターンに分かれるのか」は言及されていません。しかし、代わりにある仮説を立てています。それは、「本来、姿勢はあるべき形(=理想姿勢)がある」というものでした。
人間には本来、4つのタイプが存在し、それは決して後付け(=後天性)ではなく、生まれたときから決められた(=先天性)ものであると考えている私にとって、その仮説は賛同できるものではありませんでした。あえて言い換えるならば、「あるべき形(=理想姿勢)は、4つのタイプそれぞれに存在し、ケンダルらの研究結果は、そのまま4つのタイプの傾向が表れた結果である」というのが、30年におよぶ臨床施術で得た私なりの答えです。
さらに言えば、私は立位姿勢を「静的」「動的」に分け、より具体的な解説を入れる必要があると考えています。二足歩行により足裏で立って歩くことを覚えた人間は、結果、頭蓋、頭蓋底、胸郭、骨盤、足の裏という、それぞれの関節の節目が地面と垂直に連なることにより、脳の「安定」を得ることができるようになりました。それが、右図の「静的立位」です。私はまたの名を「トップ・オン・ドーム」と呼んでいます。「脳の安定」を有した、万人共通の立位姿勢です。
一方、「動的立位」は、前述した頭蓋安定平面のふたつ、「フランクフルト平面(=クロス平面)」と「カンペル平面(=パラレル平面)が、セットされた状態、いわば、脳の「安定」から、“脳を安定させつつ、動く準備が整った状態”を指し、これが、次項で詳解する「(4スタンス別)動的立位姿勢」です。つまり、言い換えるならば、「静的立位」は「第一段階立位」、「動的立位」は「第二段階立位」とも言えるでしょう。
個性としての4タイプに大別される際には、前項にあった「平面」が影響しています。脳の安定をもたらす「平面」は、4スタンスでは「クロス平面」と「パラレル平面」の2種です。いずれも人間(動物)の本能的な部分が色濃く反映されたものです。それが立位姿勢となり、地面に触れる足底の条件が4つのタイプに分かれた瞬間、つまり、脳が安定し続けながら動ける身体の条件を得たときに、動的立位姿勢が4分類されました。
それがことごとく、AタイプBタイプ、1タイプ2タイプの条件に当てはまっていくのを確認して、上記の骨格図を描きました。
【書誌情報】
『廣戸聡一 ブレインノート 脳と骨格で解く人体理論大全』
著者:廣戸聡一
「本来の自分の身体の動きと理屈を知り、身体だけでなく精神的な部分との兼ね合いの中で、“いかにして昨日の自分を超えるか”という壮大なテーマを、人体理論の大家であり、日本スポーツ・武道界の救世主と呼ぶに相応しい、廣戸聡一が、自身の経験と頭脳のすべてを注ぎ込んで著す最強最高の身体理論バイブル。四半世紀でのべ500,000人の臨床施術により、多くのトップアスリート、チーム、指導者、ドクターとの関わりの中で行き着いたトレーニング&コンディショニング理論の集大成、ここに完成。オリンピック競技を含む全52種目を個別にも論及、紐解いた、すべてのアスリート、指導者、スポーツファン必携の書!
公開日:2021.05.03