「首幅」で動くことの重要性
●人は首幅でしか重心移動ができない
さまざまな動作をする上で首幅は重要なキーワードになります。まずは、胸の表面に身体を左右に二分割する線をイメージしてみてください。これを正中線と呼びます。正中線の奥には背骨があります。そして背骨が首の幅で下にまっすぐ下りていくイメージを持ちます。すると、腰の下で、脚の付け根とぶつかります。そこが股関節で、そこには左右両脚の骨こっ頭とう(付け根)が存在します。
つまり、首の幅と左右の股関節幅はほぼ同じということです。そして、身体の重心は土踏まずに落ちていき、人はこの首幅の中でしか重心の移動ができないということも覚えておいてほしい大きな特徴です。また、首幅が下りていったところにある骨盤は、上下動、回旋、前後傾など立体的に動きます。
これは骨盤と、太ももの大きな骨の先端部(大腿骨頭)がネック状のボールジョイントでつながっているからです。大腿骨頭が骨盤を両サイドから挟み上げている形になっているわけです。そして首の幅と左右の大腿骨頭の幅が同じであることにより、常に人間は安定していられる。逆に言えば、傾いたことを脳が気づけるようにできているのです。
●首幅が作る「トップ・オン・ドーム」
「正しい立ち方」とは、「胸を張って、背すじをピンと伸ばす」ような立ち方ではありません。正しくは、脳を地面に対して水平・垂直に立たせることです。これにより、脳が安定しリラックスした状態が保てます。これは言い換えれば「次の動作に無理なく移れる状態」です。人間の身体は、胸部と腰部をS字状にカーブを描いてつないでいる背骨を動かすことで、体幹部を動かしています。
ですから、背中を反らせて固めてしまってはスムーズに次の動作に移ることができません。理想的な形は、股関節幅=首幅に立った両土踏まずの上に頭部があり、肩甲骨と仙骨が垂直に立つイメージの状態です。その上で、頭蓋骨を土踏まずに対して垂直にするのです。この安定した立ち姿勢を「トップ・オン・ドーム」と呼びます。
●手や道具は首幅に収まるようになっている
スポーツで道具を扱う場合、必ず自分の胸の前に、左右同じ圧力で置かないと道具を支配することができないというのも、身体の基本的なルールです。たとえば、ボウリングは胸の前に一度ボールを運びますし、野球でも必ず一度、自分の前にグローブを持っていきます。身体の真ん中にいったんボールを収めてから投げるのです。
また、テニスで相手からのボールを待つ間は、身体の真ん中にラケットを置いていますし、ゴルフも身体の真ん中でクラブを構えます。武道においても、弓道では弓を、剣道では竹刀を身体の真ん中に置くことは、構えの基本となっています。このように、自分の胸の前にバットやラケット、クラブなどを持つのは、身体を少し変形させるだけで有効に動かせるからです。これが「体幹主導」という形になるのです。
身体の正面から外れたところで合掌をしたり、柏手を打ったりしないのと同じように、ボールも自分の真ん中で打ちます。そもそも、その位置でしかインパクトが発生しないようになっているのであって、しっかりボールを捉えるという意味では、常に身体の真ん中に手がなければいけないのです。
【書誌情報】
『廣戸聡一 ブレインノート 脳と骨格で解く人体理論大全』
著者:廣戸聡一
「本来の自分の身体の動きと理屈を知り、身体だけでなく精神的な部分との兼ね合いの中で、“いかにして昨日の自分を超えるか”という壮大なテーマを、人体理論の大家であり、日本スポーツ・武道界の救世主と呼ぶに相応しい、廣戸聡一が、自身の経験と頭脳のすべてを注ぎ込んで著す最強最高の身体理論バイブル。四半世紀でのべ500,000人の臨床施術により、多くのトップアスリート、チーム、指導者、ドクターとの関わりの中で行き着いたトレーニング&コンディショニング理論の集大成、ここに完成。オリンピック競技を含む全52種目を個別にも論及、紐解いた、すべてのアスリート、指導者、スポーツファン必携の書!
公開日:2021.05.14