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<走り幅跳び>助走スピードを上げ1秒浮けば10mは跳ぶ?【物理でわかるスポーツの話】

Text:望月修

手拍子も選手を後押しする?

 走り幅跳びの男子世界記録はマイク・パウエル(米)が出した8.95m(1991年)。長期間破られていない記録としては、槍投げ(旧規格)、円盤投げ、ハンマー投げ、砲丸投げについで5番目だそうです。

 さて、この走り幅跳びの跳び方ですが、仮に空気抵抗を無視できるとすると、重心の軌跡はやはり放物線となります。跳び上がってから着地までの最大距離xmaxは、水平方向の速度u₀に空中にいる時間taを掛けたもので、xmax=u₀taが導き出されます。このことから、距離xmaxを長くするには、「走る速度を上げる」「空中滞在時間を長くする」「それら両方を増す」ということがわかります。

【❶重心の軌跡は放物線】

 いま、u₀=9m/sで走ってきたとすると、xmax=8.95mを得るための空中滞在時間taは0.994秒となります。この半分の時間でymaxに達することから、v₀=(1/2)×tag=4.87m/sが導かれ、その結果、ymax=v₀²/2gによって、空中の高さは1.21mとなるわけです。

 例えば、右の高さymaxを得るために体重70kgfの選手が0.3秒間で地面を蹴ったとすると、F=70×(4.87-0)/0.3=1136Nとなります。これは116kgfの錘を持ち上げるときの力と同じです。水平方向の速度をそのままキープしつつ、この力で地面を蹴って垂直上向き方向の速度を得て空中に跳び出し、飛翔中に前方に進む、というわけです。

 ちなみに、走るスピードをu₀=10m/sに上げて跳び上がり、そのまま1秒間浮遊していられれば、とんでもない世界記録10mは跳べるはずです。

 この1秒間空中にとどまる状態とは、上向きにv₀=4.9m/sで跳び上がることです。そうすると落ちてくるまでに1秒かかる計算となります。このときの最高点の高さは1.23mですから、先の例より2cm 高いだけです。世界記録更新は走るスピードを上げられれば達成可能なのです。

 ところで、よく観客の手拍子を力にして跳ぼうとする選手がいます。これは、どのくらい物理的に後押しになるのでしょうか?例えば、大音響で拍手の音圧レベルが100dB(デシベル)あったとすると、圧力では2Pa(パスカル)です。この圧力は2N/m²のことで、人間の後面面積が0.85m²であれば、2×0.85=1.7Nの後押しとなります。重さ換算では170g程度の力。跳ぶ瞬間に作用すれば無いよりはましというところですね。

 飛ぶ姿勢を工夫するのも面白いでしょう。距離の計測は、着地で砂についた痕跡を確認し、踏切 板前端からもっとも近い着地跡までを測ります。たいてい着地跡で近いのは踵跡(かかとあと)よりもお尻の部分です。足先がもっとも遠くに着地するので、足先より後ろに重心がきてしまいお尻が着く状態になるからです。しかし、着地時に折れ曲がった体の重心を前に出るように伸ばせば飛び込み姿勢の形になり、その結果、着地での踏切板にいちばん近い痕跡は踵跡になっているはずです。

【書誌情報】
『眠れなくなるほど面白い 図解 物理でわかるスポーツの話』
著:望月修

シリーズ累計発行部数130万部突破!「100メートル走で人類の限界は9秒21?」「サッカーでコーナーキックをうまく決めるヘディングの角度とは?」「巨漢力士はテコの原理で持ち上げろ!」「走り幅跳びで観客の手拍子は果たしてプラスに働くのか?」「バスケで3点シュートを決める方法」「スキージャンプ、究極のムササビ飛行?」「理想的な泳ぎ方とは?」ーー全44のスポーツ、運動を物理で読み解く。スポーツの見方が変わる!記録がのびる、勝てる方法がわかる!そして観戦が100倍楽しくなる1冊!