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<棒高跳び>走る運動エネルギーが世界記録を跳ぶための決め手?【物理でわかるスポーツの話】

Text:望月修

棒を押す腕の力を使ってバーを越え落下していく放物運動

 走り高跳びの世界記録は2.45m ですが、棒高跳びのポールを使うと世界記録は6.14m(1994年。セルゲイ・ブブカ/ウクライナ)と驚くほど高くなります。ちなみに、室内世界記録はフランスのルノー・ラビレニが2014年に記録した6.16mです。

 走り高跳びは地面を蹴る脚の力でバーを越え落下していく放物運動、棒高跳びは棒を押す腕の力を使ってバーを越え落下していく放物運動をおこないます。

 さて、棒高跳びでは跳躍していく選手の重心がバーの上30cmのところを通過するには、垂直に立ったポールの上での倒立時に、バーの上30cmの高さに重心を移動させる必要があります。

 ❶を参考に、バーの高さが世界記録の6.14mとして、それに30cmを加えた6.44m が重心の通過する高さです。ポールを握っている手の位置から重心までの距離を1.3mと計算すると、ポールの長さは6.44-1.3=5.14mとなります。


 ところが、アプローチからバー近くまで上昇する重心の軌跡は単純な放物線ではありません。ポールの先端をバー下の地面に設置されているボックスという穴に差し込み、助走の勢いでポールを湾曲させます。ポールの弾性力を利用して重心を上方向に引っ張り上げてもらうためです。

 そこで、助走時の重心が地面から80cmの高さとしましょう。そこから垂直に戻ったポールの先端からぶら下がると、重心位置は5.14-1.3=3.84m。これに助走時の重心位置80cmを引くと、持ち上がった高さは3.84-0.8=3.04mです。具体的に体重70kgfの選手なら位置エネルギーEp=mgh=70×9.8×3.04=2085Jと計算されますから、このエネルギーをポールのたわみに蓄えるために、u m/sで走る運動エネルギーをポールに注入することになります。運動エネルギーは、

Ek=1/2mu²

なので、これと位置エネルギーから

u=√2gh

が導かれます。したがって、h=3.04mをこれに代入すると、u=7.72m/sで助走するのが最適となるわけです。

 ポールのたわみx mによるエネルギーEBは、ポールのバネ常数をkとすると

EB=1/2 kx²

と計算式が出ます。ここにkを、一端が固定された長さLのポールのヤング率(※)をE、断面2次モーメントをIとすると、

k=3EI/ L³

との式になります。たわみ量x=3.04mとすると、EB=Epによりk=451N/m⁰また、パイプ状の断面2次モーメントIは

I=πD4-d4/64

で表されます。

 ガラス繊維を使ったポールの場合は、E=80GPaです。長さLをL=5.14mとしましょう。そうするとIは2.55×10⁻⁷m⁴。これらよりポールの太さは直径が外径D=0.050m、内径d=0.032mと求められます。ただし、これでは若干太めかもしれませんね。

※ヤング率:部材に錘を載せたとき、どれだけ縮むか、またはどれだけの力で引っ張るとどれだけ伸びるかを表す量。縮む量が小さいとそれだけ硬いことを表し、逆にたくさん縮むと柔らかいということになる。

【書誌情報】
『眠れなくなるほど面白い 図解 物理でわかるスポーツの話』
著:望月修

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