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<やり投げ>マラソン並の速度で助走し、53°の方向に投げれば世界新?【物理でわかるスポーツの話】

Text:望月修

現在の世界記録は98.48m


 現在のやり投げの世界記録は1996年にヤン・ゼレズニー(チェコ)が出した98.48mです。
男子用の槍やりの長さは2.7m、重さ800gfです。現在の槍は安全のために100m以上飛ばないよう工夫されています。なお、小・中学生用には槍の代わりに長さ70cm、重さ400gfのターボジャブ(ロケット状投てき物)を使うようになってきました。

 槍のみならず、物をVm/sの速度で投げ出すとき、空気抵抗が作用しない放物運動で上向きに45°方向に投げたなら、その速度で出せる最大距離は、

xmax=V²/g

となります。もともと最大到達距離は、


と表されますが、これはθ=45°でsin2θが最大値の1となるためです。また、式により、到達距離は投げ上げる速度Vの2乗に比例することから、いかにVを大きくするかも重要です。

 槍が放物運動をする場合、98.48mの距離が出る速度を上述の式から求めると、

V₄₅= √gxmax=√9.8×98.48=31.1m/s

です。この速度を0.3秒で出すとすると腕の力FはF=0.8×(31.1-0)/0.3=83Nとなり、約8.5kgfの錘を持ち上げる力に相当します。

 やり投げは走りながら投げます。走る効果を見てみましょう。ある角度θで投げる速度Vθの水平方向成分Vθcosθに走る速度u m/sが足されることになります。また、Vθの上向き速度成分はVθsinθで表されます。投げ上げる速度成分と水平方向の速度成分の合成速度の方向が、水平から45°
上方向になるようにするにはこれらが等しいことが条件となります。したがって、Vθsinθ=Vθcosθ+uの関係となります。これにより、Vθ、θおよびuとの間には、


の関係が生じます。右は腕を振る速度ですが、実際に飛んでいく物体の速度V₄₅との関係は❷より、

V₄₅=√2Vθsinθ

です。これらから、Vθ/V45≦1 となるには投げ上げる角度θは45°以上であることがわかります。

 世界記録の距離を出す場合を想定し、パラメータのいくつかの組み合わせを上述の式で計算した結果を表に示しておきます。マラソン選手並みの速度u=5.4m/sで走れば、投げる速度はVθ=27.5m/s。53°の方向に投げれば、やりはV45=31.1m/sで飛び出し、放物線を描いて98.48m飛ぶことになります。

 つまり、止まった状態で右の速度を出すよりも、走る速度を加味することで、止まって投げるより83‒73=10N分弱い力で済むようになる、というわけです。


【書誌情報】
『眠れなくなるほど面白い 図解 物理でわかるスポーツの話』
著:望月修

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