SPORTS LAB
- スポーツを通じて美しくそして健康に -

  • HOME
  • SPORTS LAB
  • <バレーボール>無回転スパイクの球筋を予測するレイノルズ数とは?【物理でわかるスポーツの話】

<バレーボール>無回転スパイクの球筋を予測するレイノルズ数とは?【物理でわかるスポーツの話】

Text:望月修

どこに打ってもレシーブされそうだが

 9m四方のバレーボールコートを守る6人の守備範囲を❶に示しました。ネットの高さは一般男子の2.43m。守備範囲はプレーヤーの脚元から伸ばした手の先までの長さ(平均2.4mと仮定)が半径の円内としています。


 これを見る限り、重なり合った部分を2~4人でカバーしているため、どこへボールを打ってもレシーブされるように見えます。この隙間のないコートへボールを打ち込むには、フェイントで選手の位置をずらせて隙間を作るか、守備陣形が整う前にアタックするかしかないようです。

 では、ネット際のA点から対角線上の後方コーナーを狙ってスパイクすることを考えます。コーナーB点の守備は一人だけなので得点のチャンスはあります。スパイクを時速150kmとすれば秒速で41.7m/s。後方コーナーまでの距離は、

√9²+9²=12.7m

なので、ジャンプして3mの高さから打ったボールが直線的に飛ぶとすると、ボールの移動距離は

√3²+12.7²=13.05m

です。したがって、ボールがB地点に到達するまでの時間13.05/41.7=0.31秒となります。

 人間が反応するまでの時間は0.2秒とされているのに、スパイクの瞬間から0.1秒で2.4m 動かなければなりません。2.4/0.1=24m/sの速度です。0.1秒でこの速度になるので加速度は24/0.1=240m/s²です。80kgfの体重であれば、右の加速を得るための力はF=80×240=19200Nとなります。つまり、約2トンの錘(おもり)を持つ力が必要だということになります。無理でしょう。

 逆に、倒れ込む加速度=重力加速度で2.4m移動する時間を逆算すると、

t=√2×2.4/9.8=0.7秒

かかることがわかります。スパイクの瞬間から0.2+0.7=0.9秒なので、先の速度でボールを打てば点が入ることになります。ちなみに、0.9秒以上かかるスパイクのスピードは13.05/0.9=14.5m/s以下です。時速なら52km/h以下です。この速度のスパイクでも、ネットから3m離れたところに打つときに床に到達する時間は、


ですから、レシーバーは取れないことになります。いずれにしても、フェイントをかけて守備陣形に隙間を空けさせることが重要となります。

 110km/hのサーブは秒速では30.6m/sです。ボールの直径20cm。このスピードで飛ぶボール周りの空気の流れを知るために(※)レイノルズ数Re(=寸法×スピード/空気の動粘性係数)を求めると、空気の動粘性係数は1.5×10⁻⁵m²/sなので、Re=0.2×30.6/1.5×10⁻⁵=4.08×10⁵と計算できます。


 ❷のグラフの、ちょうどクリティカルレイノルズ数あたりです。ここは無回転で打ったボールの空気の流れが剥離(はくり) する様子の激変するところです。ボールが予測不能の運動をするため、レシーブしにくいサーブとなります。他の球技でもクリティカルレイノルズ数あたりでボールの動きは激変します。予測不能な動きをすることで競技の面白さ(ギャンブル性)を増すという事実を、歴史的に経験として会得した結果、数々の球技ができあがったと言えるでしょう。

 クリティカルレイノルズ数付近では、空気の流れの剥離する位置が前方から測ると約85°となりますが、クリティカルレイノルズ数を超えると約120°へと変化して、後方の負圧領域が小さくなります。
これが抵抗減少の原因です。

 抵抗減少を有効に使っているのは、ゴルフボールです。表面に小さな窪み(ディンプル)をつけることで空気の流れを乱し、クリティカルレイノルズ数が小さくなって普通では起こらないレイノルズ数でも剥離位置を後方にずらす役割をさせているのです。結果として抵抗が小さくなり、遠くまで飛ばせます。

 このように、ボールの表面状態を特徴づける縫い目や材質、回転数、回転方向の違いがクリティカルレイノルズ数を変化させるために、どのくらいの速度で飛ばせば抵抗が劇的に変化するのかが予想できなくなるのです。

 

※レイノルズ数:速度とボールの直径を掛け、空気の粘り気を表す動粘性係数で割ったものをレイノルズ数と言う。ボールの速度が大きいとレイノルズ数も大きくなる。ある速度になったとき、急に
空気抵抗が小さくなることがある。このときのレイノルズ数をクリティカルレイノルズ数と言う。

【書誌情報】
『眠れなくなるほど面白い 図解 物理でわかるスポーツの話』
著:望月修

シリーズ累計発行部数130万部突破!「100メートル走で人類の限界は9秒21?」「サッカーでコーナーキックをうまく決めるヘディングの角度とは?」「巨漢力士はテコの原理で持ち上げろ!」「走り幅跳びで観客の手拍子は果たしてプラスに働くのか?」「バスケで3点シュートを決める方法」「スキージャンプ、究極のムササビ飛行?」「理想的な泳ぎ方とは?」ーー全44のスポーツ、運動を物理で読み解く。スポーツの見方が変わる!記録がのびる、勝てる方法がわかる!そして観戦が100倍楽しくなる1冊!

芝山ゴルフ倶楽部 視察プレーのご案内