身体がもっとも身近なモデル
子どもたちの描く家の絵には共通点があります。多くの子が四角い箱に三角の屋根、左右に窓をつけ、その間にドアを描くのです。この絵は人間の顔に似ています。しかも窓は外を見る目、庇は眉毛のように窓を保護し、ドアは食べ物の入口ですから、機能までそっくりです。これは偶然ではありません。
私たちは毎日自分の身体を見て、つかい込んでいます。何かをつくるとき、それをモデルにするのはむしろ当然のことだといえるでしょう。たとえば、お碗は両手、スプーンやひしゃくは片手で水をすくう形をモデルにしていますし、フォークも5本の指を模しています。
建築も同様です。人の全身をモデルにした建築の代表例に、十字架形のキリスト教会があります。平面図先端にある内陣(聖所)は頭のように球形です。左右に広げる両腕部分は袖廊、胴体と足にあたる中心部は身廊と呼ばれます。この名が示すように、磔つけにされたイエス・キリストの身体を建築化したデザインなのです。
母胎をモデルにしたとされる住まいも数多くあります。代表例はモンゴルの伝統的な家屋、ゲルです。
ゲルの中央には解体用の紐が下げられているのですが、ゲル内を子宮、紐をへその緒とイメージすれば、母胎を建築化したものだとわかります。日本でも民家の納戸や寝殿造の塗籠と呼ばれる寝室が同じ構造です。
いずれも入り口は一つで、窓はありません。子宮のような空間で身体を休め、朝になると、再びうまれかわるように外に出る。まさに母胎のイメージを造形化したものと考えられるのです。
出典:『眠れなくなるほど面白い 図解 建築の話』
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「うだつが上がらない」は建築からうまれた言葉?
本書、「図解 建築の話」では建築について様々な知識を提供していますが、ここではその中でも日常生活でもなじみのある「うがつが上がらない」という言葉について、ご紹介しましょう。
「うだつの上がらない人だ」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。うだつは漢字で「卯建」と書き、日本家屋に見られる設備です。うだつは防火設備だと解説されることがありますが、当初の目的は違いました。
中世から近世にかけての町家の屋根は、多くが板葺きでした。強い風にあおられると、めくれあがってしまいます。これを防ぐため、茅などを束ねて屋根を押さえたのが、うだつの始まりです。そもそも可燃性ですから、防火機能はほとんどなかったと考えられます。江戸時代に入ると、壁が漆喰塗りになり、屋根は瓦になって、町家の防火性は高まりました。しかし、軒裏部分は火が走りやすいので、袖壁を外に出し、漆喰で固め、延焼を防ぐ「袖うだつ」が登場します。
うだつが防火設備から意匠をこらしたものをにかわったわけ
このころ、うだつが防火設備になったのです。火事が多いのは冬ですから、袖うだつは冬に風が吹く側につければこと足ります。しかしそれではバランスが悪いので、厚みの違うものを両サイドにつけるようになりました。よく観察すると、風下側のうだつは薄く、風上側は火に耐えるよう厚く、つくられていることがわかります。
とはいえ、このようなうだつを設置するのにはそれなりの費用がかかります。そこから「うだつの上がっている家は成功している」というイメージが浸透し、「うだつが上がらない」という表現がうまれたようです。そのためか、現在も残っているうだつの多くは、本来の機能とは別にうだつの壁面には細かい装飾や小屋根に意匠を凝らしたものとなっています。
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只今紹介した「うだつ」という言葉の由来だけでなく、本書では建築の様々な知識を紹介しています。その数実に60個です!以下の5つのパートに分けて紹介をしているため、気になるパートから読むことが可能です。
「①日本の建築は知らないことだらけ」「②こんな目で見ると近・現代建築も面白い」「③寺社はこだわりの世界」「④城・庭が育んだ日本の美意識」「⑤建築を支えた縁の下の力持ち」の5章にわたって、日常生活において切手は切り離せない「建築」の奥深い世界を図解で分かりやすく解説します。
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【書誌情報】
『図解 建築の話』
著者:スタジオワーク
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公開日:2022.09.07