老化と呼吸は深く関わっている
呼吸は、息を吸う動作(吸気)と息を吐く動作(呼気)からなっています。吸気は主に横隔膜と一部肋間筋を使っています。次のような実験があります。まずガラス瓶の底を切って柔らかなゴムシートでおおう。瓶の口からゴム風船をしぼんだ状態で瓶の中に垂らす。次にゴム風船を瓶の口にしっかり止めた状態にし、ゴムシートを引っ張る。そうすると瓶の中のゴム風船が膨らむ。この実験は吸気を理解するためなのです。
底をおおったゴムシートが横隔膜で、風船が肺。ゴムシートを引っ張ることで、風船をおおう空間(体で胸腔)が陰圧になるため、風船(肺)が膨らむのです。ただし、この実験モデルによる吸気では、横隔膜が収縮していることがわかるものの、混乱するのは、なぜか横隔膜が伸びているようにも感じることです(下図)。
横隔膜とは、すべてが筋肉(横紋筋)からなっているのではなく、中央部は筋肉を欠き、腱膜(腱中心)になっています(下図)。
横隔膜が収縮するとこの腱膜部が腹側に動き、胸腔容量が増えます(下図)。
それに対して呼気は、主に肺の、一部胸壁の弾性力によって息を吐きます。ですが、呼気に横隔膜や肋間筋をどれくらい使っているのかはわからないのですね。ほかの筋肉と同じように、老化にともなって横隔膜や肋間筋の筋力が低下することは知られています。そこで改善のための吸気筋トレーニングがあります。効果はそこそこあると思われますが、そんなこともあって巷には“〇〇式”と銘打った呼吸法が溢れているようです。
それはともかく、呼吸で大事なのは、大きく息を吸って吐くこと。つまり、深呼吸をすることなのです。深呼吸は、思いついたときに行なえばいいのですが、就寝時などに寝転がっての深呼吸は勧めていません。というのも、喘息の患者さんや高齢の女性では、割と“逆流性食道炎”を患っている方がいて、寝転んで大きな呼吸をすると胃液が食道に逆流し、胸焼けを起こしかねないからです。
呼吸機能検査の予測値は、身長と年齢に相関しているものの、全肺気量(TLC)は大きく低下しないといわれています(下図)。しかしながら、機能的残気量(ヘリウムガスを使用した特殊な器械でしか測定できない)が増加していくため、肺活量が低下するのです。機能的残気量の増加は、肺の中に空気が溜まって腫れた状態を呈するため、“肺気腫”に近い症状となります。こんな状態を“老人肺”別名“老人性肺過膨張”といいます。老人肺は、通常の肺気腫に見られるような気腔の破壊ではありません。
支持組織の減少による内径2mm以下の「小さな気道(small airway)」の早期閉塞によって「空気捉え込み現象(airway trapping)」と過膨張が起こるのですが、加えて1秒量も低下していきます。呼吸の筋力の低下が、ただちに病気につながるわけではありません。といっても、呼吸機能の低下を引き起こすわけですから、仮に呼吸の負荷が発現して心不全や発熱など脈拍が早くなる病態が生じると、アッという間に“低酸素血症”が出現し、全身状態の悪化につながる可能性があるのです。高齢になると、さっきまで元気だったのに、急に不調になることが間々あるため、家族の方はときどき声掛けが必要となりますね。
出典:『眠れなくなるほど面白い 図解 老化の話』監/長岡功 野村義宏
【書誌情報】
『眠れなくなるほど面白い 図解 老化の話』
長岡 功 総監修/ 野村 義宏 監修
高齢化や平均寿命が伸びた社会では、「老化」は誰もが避けられない、しかし誰もが可能な限り抗いたいテーマ。その多くは人体の「老化現象」、またそれに伴う「諸症状」として、完全には克服できないまでも、原因やしくみを知ってうまく対応すれば、症状を「やわらげる」ことや、日常生活での「影響を少なくする」こと、また「目立たなくする」ことが可能である。本書では具体的に、老化にともなう病気・諸症状の原因に言及し、その対処・対策法を解説、紹介する。中高年以降の健康と美容の悩みを楽しく読めて、一気に解決する一冊です。
公開日:2023.03.13